オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『深夜の告白』

Double Indemnity, 107min

監督:ビリー・ワイルダー 出演:フレッド・マクマレイ、バーバラ・スタンウィック

★★★★

概要

保険の営業マンが人妻と共謀して保険金殺人を実行する話。

短評

犯人の回想によって事件が語られるノワール映画。この「現在から過去へと時間を遡って叙述する」ことを「倒叙」と呼ぶそうである。その元祖とも言える映画なのだとか。『刑事コロンボ』に代表されるような「犯人が分かってるのに面白いなんて凄い」というタイプの話なのだが、古い映画にありがちなテンポの悪さを感じることが一切無く、本当に面白かった。保険金殺人という設定も擦り切れそうなほどに使い回されているはずなのに、新鮮味を感じさせる程に嫌な緊張感が強く漂う一作だった。

あらすじ

保険会社の営業として働くネフ(フレッド・マクマレイ)が終業後のオフィスを訪れ、社内連絡用の録音機に自らの罪の告白をはじめる。ネフは、自動車保険の更新のために立ち寄った顧客の家で夫人のフィリス(バーバラ・スタンウィック)と出会い、彼女に強く惹かれるようになる。彼女の「夫には黙って傷害保険に入れないか」という問いに怪しい臭いを嗅ぎつけたネフだったが、その魅力に抗うことはできず、夫の殺害に加担することを決める。

感想

筋書きは極めて単純である。ネフが同僚キーズ(エドワード・G・ロビンソン)宛の録音メモで「自分が殺したんだ」と告白をはじめる。ネフとフィリスが出会って恋に落ち、ネフは前々から考えてあったプラン(保険屋故に規約の穴を見つけている)を実行。それでも計画には小さな綻びがあり、その上フィリスはファム・ファタール。「金と女のために殺し、どちらも手に入れられなかった」という冒頭の告白へと行き着く。

最初から結末は分かっているわけだし、恋に落ち、殺し、バレるという先々の展開にも意外性はない。それなのに抜群に面白いのである。キーズが元婚約者を「生まれつきの性悪」と称してフィリスもそうであることを示唆しているが、たとえそうだと分かっていても美しき悪女の魅力に抗えない主人公には容易に感情移入できてしまう。列車事故という発生率の低い原因で死亡すれば倍額の保険金が貰えるという計画が、シンプルであるが故に成否を握る集中すべきポイントが分かりやすい。計画外の小さなトラブルやミッション完遂後の不安感に基づくサスペンス(証人ジャクソン、エンスト、フィリスとキーズの鉢合わせ未遂)が随所に散りばめられている。それらの全てに一切の無駄がない。

特に気に入ったのは、ネフがフィリスの夫を殺して自宅に戻り、アリバイ作りのために外出するシーン。完璧な計画を完璧に遂行したはずが、彼は「足音が聞こえない」という不安に駆られている。この「完璧であるが故の不安」である。なにか問題を自覚していれば、その事を気にかけ、バレないように対策を考えるといったことに集中もできるだろう。しかし、計画通りに上手くいったとしても、「人を殺した」という事実と露見の恐怖から自分自身の心が逃げられない。「何か思い違いがあったら」と考えずにはいられない。その心理状態を「足音が聞こえない」と表現したのは秀逸だと思う。不安障害気味だと自認している三十郎氏には、その気持が分かるような気がする。

結末は分かっていても劇中の二転三転は非常に楽しい。不正請求を見抜く専門家のキーズが最大の障壁かと思いきや、逆に「統計的に列車からの飛び降り自殺はありえない」「時速25kmのノロい運転で死のうとするバカはいない」と「自殺=免責条項」説を訴える社長を退けて味方になってくれる。しかし、エキスパートとしての勘が働き、事件の真相を解明していくのだが、この時の彼はネフが犯人だと疑っていないが故にハラハラ感があった。上述の「完璧であるが故の不安」と同じく、自分が何か具体的な行動に出られるわけではないために不安という感情と対峙するより他にない。また、あらゆる可能性を疑いながらもネフを全く疑うことのないような彼との関係がラストに余韻を残してる。

細かい箇所も上手く理屈づけられていた。ネフは事前に夫を車内で殺害し、自分が彼に成りすまして列車からの転落を装う。夫の殺害方法は恐らく「絞殺」だと思うのだが、死体発見後の死因が「首の骨折」と推定されているのは、ギリギリで納得できるラインだと思った。確か絞首刑でも首の骨が折れるのではなかったか。

典型的ファム・ファタールのフィリス様。最初から悪女だと思って観ていても「そこまで悪女だったか」と驚かされる極悪エピソードが続々と出てくる。ローラ(ジーン・ヘザー)の告白の件はなんとなく予感していたものの、ニーノの方は「そっちもか」となった。美女って怖いですね。しかし、彼女の「私は殺すつもりはなかった。あなたの計画よ」という言葉には一理あり、美女の歓心を買おうとする男が暴走しただけなのかもしれない。彼女に上手く乗せられたのか、それとも勝手に乗ったのに乗せられたと思っているのか。

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