オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『マージン・コール』

Margin Call, 106min

監督:J・C・チャンダー 出演:ケヴィン・スペイシーポール・ベタニー

★★★

概要

リーマン・ショックの発端。

短評

(作中で明言はされないが)リーマン・ブラザーズをモデルとした投資銀行がアレする前夜の様子を濃密な緊張感で描き出したドラマである。一部登場人物を間抜け化させる瞬間はあるものの、おかげで深刻な事態が分かりやすく説明されている。会社の中にも一般社員、管理職、取締役、そして社長と様々な立場の人間がいて、複数レベルでのゲームが繰り広げられる。ノンフィクションではないのだろうが、大変な説得力と見応えのある一作だった。マージンコールとは、強制ロスカット前の通知や要求される追証のこと。

あらすじ

ウォール街の大手投資銀行で大規模なリストラが敢行された。その対象となったリスク管理部門のエリック(スタンリー・トゥッチ)は、部下のピーター(ザッカリー・クイント)にやり残した仕事のデータを手渡して会社を去る。その内容は、保有する金融商品の価格変動により会社の総資産8兆ドルを上回る巨額損失を出しかねないリスクを抱えているというものだった。ピーターはすぐさま上司に連絡し、更にその上司、その上司、そして社長が集まり緊急対策会議が開かれる。

感想

三十郎氏は事前情報無しでケヴィン・スペイシーに釣られて本作を観たのだが、大手の投資機関が舞台で、そこがヤバい状態に陥っており、MBS不動産担保証券)という単語が登場した辺りで、これはリーマン・ブラザーズの話なのだと理解した。三十郎氏の世代には大変に馴染み深いアレである。

「このままだと破綻する」という状況に際して社員がどう対応するか。観客が最も感情移入しやすいであろう平社員にできることはほぼなく、ピーターとセスはただただ翻弄されているように見える。(エリックの解雇で)彼らの上司となった取引部門のウィル(ポール・ベタニー)は、「ダメならダメで」と達観したようなところがある。いずれにせよ彼らは現場の社員であり、会社の意思決定をできる立場にない。

ウィルの上司サム(ケヴィン・スペイシー)や、その上司ジャレド(サイモン・ベイカー)、リスク部門のサラ(デミ・ムーア)がそれぞれの立場を主張しつつ、最終判断は社長のトゥレド(ジェレミー・アイアンズ)へ。「社を守るためにはMBSを全て売るしかない」ということになるのだが、ここで現場のトップであるサムとの間に対立が生じる。不良資産を売ることは顧客や取引相手を騙すことを意味し、現場の人間はその後のキャリアを断たれることになる。更には市場全体の機能を毀損し、一般市民にも多大な影響が出る。そこに葛藤があろうとも、最後はカネを選ばざるを得ないのはウォール街の人間らしかった。実際のリーマン・ブラザーズも売り抜いたのだろうか。それでも破綻したのか。

サラとジャレドが責任のなすりつけ合いをするようなシーンがあり(エレベーターで彼らに挟まれた掃除のおばちゃんの気まずさが凄いが、彼女を無視して会話を続ける辺りに人を人間扱いしない傲慢さが際立つ)、サラ曰く「私は忠告したわよ」と。忠告止まりでなく予測して利益を上げた男たちの話が『マネー・ショート 華麗なる大逆転』ということになるのか。

アメリカのリストラ文化の冷淡さについては『マイレージ・マイライフ』等の映画である程度知っているつもりだが、やりかけの仕事の引き継ぎを気に掛けるエリックが「それはいいから。それより早く出ていって」と無下に追い出される姿はやはり胸に迫るものがあった。「お前の仕事なんてどうでもいい」と文字通りに職場での存在を否定されている。その仕事が、会社どころか世界経済の命運を握っていたのだから皮肉なものである。

街を見下ろしながら優雅に食事するトゥレドの姿が見事なまでのサイコパス(ソシオパス?)だった。部下の八割が解雇されても治療に1日1000ドル掛かる瀕死の飼い犬を気にかけていたサムが実に人間らしく見えてくる。いつの間にかこいつに感情移入できるようになったくらいである(実際には最初から人より犬という点で同意できるのだが)。同じ悪どい人種でもより酷い奴を目の当たりにすれば、同族嫌悪から良心が芽生えるのだろうか。本作の登場人物は皆強欲だが、それぞれに欲の強さや種類の違いを見せる。欲が強いほど上にいくのだろうか。それとも上にいくほど欲も強くなるのだろうか。

本作では平社員でも数十万ドルのサラリーを稼ぐ高給取りなので、ルサンチマンの塊である三十郎氏には、彼らが解雇されようが会社が潰れようが「ざまあみろ」という気持ちがどこかにある。しかし、金融市場の混乱が回り回るまでもなく、半回りくらいで自分の身にも降りかかることを知ってしまったため、溜飲を下げてばかりもいられないのが難しいところである。

コロナ・ショックもどこかの金融機関を同様の破綻危機に追い込んだのだろうか(現在進行系か)。本作に見られる緊張感溢れる舌戦の舞台が、オンラインのビデオ通話だと映画化はしづらいだろうな。

マージン・コール(字幕版)

マージン・コール(字幕版)

  • メディア: Prime Video