オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『抱擁のかけら』

Los abrazos rotos(Broken Embraces), 127min

監督:ペドロ・アルモドバル 出演:ルイス・オマール、ペネロペ・クルス

★★★

概要

映画監督とスポンサーと愛人の三角関係。

短評

封じられた過去の記憶が現在へと繋がる愛憎劇。老人の嫉妬は大変に見苦しかったが、相手がペネロペ・クルスの如き美女であれば仕方がない。“美しすぎる女性”として登場する彼女は確かに美しい。ミステリアスな過去の物語は約束された悲劇にしかなりえないが、現代の物語は全てが明らかったとなったことで初めて一歩先へと踏み出す。愛は悲しみを生み、同時に希望を生み出す。

あらすじ

盲目の脚本家ハリー・ケイン。彼はかつてマテオという名前で映画監督をしていた。彼の元にライ・Xと名乗る自称ドキュメンタリー監督が現れ、「一緒に脚本を書いて自分が監督したい」と申し出る。過去にライと会っていると思い出すハリー。その記憶は、14年前にライの父であるエルネストの愛人レナ(ペネロペ・クルス)を主演に撮影した『謎の鞄と女たち』という映画に遡る。それは同時に彼が視力を失った記憶でもあった。

感想

レナが元売春婦であることを知った上で秘書として雇用し、彼女が再び窮状に陥る機会を狙って愛人としたエルネスト。とんだゲス野郎である。息子に密着撮影させた映画の撮影現場を映像を読唇術士に読み上げさせながら鑑賞する姿がシュールなまでの支配欲を感じさせた。そんな爺から逃げ出したい美女をオーディションの演技がダメでも採用する映画監督。当然そういう関係になる。当然爺は嫉妬に狂う。

エルネストもハリーもそれぞれにレナを愛しているのは間違いないが、両者ともに立場を利用しているが故の歪みがあるように思う。後者はそういう関係として描かれていないと思うのだが、レナの「爺から逃げたい」という感情が先行している気がしてならない。窮状から救い出してくれる王子様的な存在だったのは、二年前のエルネストも同じだったはずである。

基本は三角関係の話だが、実は四角関係の話である。ハリーのアシスタント、ジュディットは過去に彼と恋愛関係にあり、それ故にエルネストの復讐に加担したという事実が彼女の口から明らかにされる(トニック抜きのジントニックの力を借りて告白)。嫉妬するのは男ばかりではない。誰かが誰かを愛せば、誰かが誰かに愛されない。愛って難しいですね。

劇中劇『謎の鞄と女たち』は本編が面白くなりそうなのか分からなかったが、撮影中のペネロペ・クルスのレトロなメイクや衣装が大変に魅力的だった(ああいうファッションをなんと形容するのだろう)。女優はスクリーンでこそ輝くに近い現象だったと思う。彼女を拝むためだけにでも完成版を観てみたい。アーサー・ミラーと息子の話や、ヴァンパイアが運営する献血センターを描く『あなたの血を』のアイディアは面白そうだった。後者のアイディアを練る時に、女吸血鬼と人間の青年が恋に落ちて交わる際の問題点を熱心に構想する辺りが“男”だと思った。

盲目のハリーは、道を渡るのを手伝ってくれた女性をナンパして自宅に連れ込んでいる。情熱の国の男はあらゆる手段を思いついて実行するものである。お相手の美女(キラ・ミロ)が「スリーサイズは90-68-90」と発言しており、ウエスト60以上はデブという言説の嘘がよく分かる(90が大きいことは間違いない)。

本作が公開された2009年にはプロ入りしたばかりで無名の選手でしかなかったが、今ハリー・ケインの名前を聞くとサッカー選手を思い出さずにはいられない。登場人物に名前をつける時にも有名人や他の映画のキャラクターと被らないようにといった苦労があるんだろうな。逆に利用することで意味を付加する場合とどちらの方が楽だろう。

抱擁のかけら (字幕版)

抱擁のかけら (字幕版)

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