オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ユリシーズ』

Ulisse(Ulysses), 104min

監督:マリオ・カメリーニ 出演:カーク・ダグラスシルヴァーナ・マンガーノ

★★★

概要

ユリシーズが自宅に帰る話。

短評

ジェイムズ・ジョイスの超長編小説ではなくホメロス叙事詩オデュッセイア』の映画化作品。オデュッセイアオデュッセウスユリシーズと表記が様々でややこしいが、全て同一人物のことである(本稿ではユリシーズに統一する)。こちらの原作も長いのでかなり端折られているはずなのだが、ほどよいスケール感で「こんな話だった」という概略が掴めたつもりになれた。『イリアス』だったり他のギリシア神話も、これくらいの気楽さで学べる映画があるといいのに。壮大になり過ぎず、ポンポンと話が進んでいくのが気持ちよかった。また、3000年近くも昔に書かれた物語には、現代にまで通じる様々な物語の原型が見られて楽しかった。

あらすじ

トロイア戦争へと出兵したまま故郷へ戻ってこないイタカ国王ユリシーズカーク・ダグラス)。ポセイドン像を破壊した彼は、カサンドラの3倍の呪いに苦しめられていたのである。王妃ペネロペ(シルヴァーナ・マンガーノ)には多数の求婚者が再婚を迫っていた。フェアチ島に漂着したユリシーズは記憶を失っていたが、海を見て、嵐に襲われたこと、一つ目の巨人との対決、セイレーンの岩、魔女キルケといった試練の記憶を取り戻す。

感想

一つ目の巨人の名はポリュペモス。ポセイドンの息子である。巨人や怪物を退治するには「酒を飲ませて眠らせる」というテンプレのオリジナルは本作よりも古いのだろうか。男たちが足踏みして製造したワインは不潔だし、発酵させていないから酔わないだろうとは思うものの、巨人を表現する特撮がよく出来ていた。

ユリシーズの部下たちが魔女キルケに豚の姿に変えられてしまうのは『千と千尋の神隠し』を、キルケの誘惑に屈したユリシーズが島で六ヶ月も過ごしていたのを「一晩かと思った」ととぼけるのは『浦島太郎』を、ユリシーズの弓という彼だけが使いこなせるアイテムは『シンデレラ』を思い出させた。時と場所は離れていても、“物語”は繋がっているのである(ペネロペがアンティオノスに落ちかける寝取られというジャンルも)。

このように本作には「おっ、この展開はどこかで……」と思わせる描写に溢れており、物語の創作が古の昔より脈々と受け継がれてきた流れの中にあることを確認できる。「AはBから引用」と解説されて「そんなこと知るか」とスノッブさが鼻につくことも多いが、引用することで意味を付加したり、創作行為の上でも重要な要素だったりするので、やはり知っておいて損はないのである。

ユリシーズがイタカ国に帰還してからの展開がかなり血生臭い。物乞いに扮して妻を試すというどこかで……な展開を経て(老犬アルコスだけが彼に気付く。やはり人類の最高の友の犬である)、ユリシーズが求婚者たちを皆殺しにする。ユリシーズの生死は宙ぶらりんだったわけだし、三十郎氏は「何も殺さなくても……」と思わなくもないが、これが当時の価値観だったのだろう。部下も船が沈没してあっさり全滅していたし、主人公以外の命の扱いが驚くほどに軽い。

フェルチ島の王女ナウシカア(ロッサナ・ポデスタ)がとても可愛い。地元のレスリング王者に勝利して彼女に気に入られたユリシーズは、ステノスと命名されて結婚する運びとなるのだが、その前に記憶を取り戻して故郷に帰還する。意志薄弱な三十郎氏であれば、妻子のことは思い出さなかったことにして彼女と結婚していたかもしれない。ペネロペも気品高い美女だが、ナウシカアの方がタイプなのである。

ユリシーズ (字幕版)

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