オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ザ・ヴァンパイア ~残酷な牙を持つ少女~』

A Girl Walks Home Alone at Night, 100min

監督:アナ・リリー・アミールポアー 出演:シェイラ・ヴァンド、アラシュ・マランディ

★★★★

概要

イランが舞台のヴァンパイア映画。

短評

正直に告白すれば具体的に何が魅力なのかよく分からない。抑揚のないストーリーはどちらかと言えば退屈。ホラー映画として怖いわけでもない。夜道を一人歩く少女の方が怖いというフェミニズム発想の転換にも興味はない。それなのにどうしようもなく強く惹かれてしまう一作である。イスラムの伝統衣装チャードルを被った女が闇夜に佇んでいる姿だけで不気味。ジム・ジャームッシュ的なオシャレ映像、西部劇風のBGMや演出、人間の男とのロマンス、合わないようで合うポップ・ミュージック。何が何だか分からないジャンルミックスが渾然一体となった不思議なヴァンパイア映画である。「イラニアン・ヴァンパイア・スパゲティ・ウエスタン」とはよく言ったものだと思う。

あらすじ

イランのバッド・シティ。そこに住む青年アラシュは、2191日(約6年。何故日数換算なのか)働いて買った車を、ヤク中の父ホセインのツケのカタとして売人に奪われる。売人は夜道で一人の女(シェイラ・ヴァンド)に出会い自宅に連れ込むが、彼女は吸血鬼だった。

感想

オシャレな雰囲気映画と言ってしまっても構わないだろう。その代わりに持ち味の雰囲気は抜群である。無機質でありながら生き物のように駆動する巨大な機械が立ち並ぶ工場地帯を背景に、コントラストとビネット(周辺減光)の強いモノクロ映像が独自の世界を創り上げている。この映像の持つ力で成立しているような一作である。特に西部劇の決闘風に道路を挟んで向かい合う構図やBGMの演出意図なんて全く意味不明なのに格好いいと感じさせられてしまう。風船を持って踊るオカマのスローモーションも同様である。ただロングショットで画面を横に移動するだけでも、道が坂になっていたりするアクセントがある。夜中に強めの洋酒を舐めながら眺めると、魅力が倍増するタイプだと思う。

ヴァンパイア女が、ドラッグの売人や娼婦に入れあげるヤク中を“選んで”殺す描写からは、堕落した男への鉄槌のような視点が感じられるが、何もしていないホームレスの男も殺していたのであまり関係なかったりするのか。夜に一人で出歩く少年に対しては「お前はいい子なの?」と問いただしてから解放しており、無口な吸血鬼の行動理念の一端が感じられなくもない。この少年から入手したスケボーで移動するショットは本作のハイライトである。ボーダーのカットソーにジーンズという現代的な服装の上にチャードルがマントの如くはためき、足元にはスケボー。シュールである。それを成立させてしまう映像の力が、本作の魅力を象徴している。

コスプレ・パーティーで骸骨に扮しているのが監督のアナ・リリー・アミールポアー本人らしい。ヴァンパイアの扮装をした青年と本物のヴァンパイアが恋に落ちるという「なんてベタな……」な出会いなのだが、吸血鬼の部屋で首に噛みつきそうなところから胸に顔を預ける絶妙な速度のスローモーション、安全ピンでピアスの穴を空ける田舎ヤンキーみたいなエピソード(ハンバーガーは皆好きですよね)、猫の存在で父を殺されたことに気付いたアラシュの若干の逡巡といった全てが、ダサいのに格好いい青春映画的な輝きを放っている。

吸血シーンも生々しくはないし(むしろ乾いている)、ショッキングな描写の少ない一作なのだが、売人の死体が捨てられる溝には無数の死体が転がっていたりする。登場人物が関わる部分よりも背景の方がダークというのもまた不思議な感覚。

『A Girl Walks Home Alone at Night』という原題の響きはリズム感が良いし、そこから想起される光景への意趣返しとも言える内容なので、邦題はもう少し考えてほしかった。オシャレなホラー映画なのに、このB級映画みたいなダサい邦題で損をしている。無難に『ア・ガール・ウォークス・ホーム・アローン・アット・ナイト』で構わなかったと思う。

吸血鬼を部屋に連れ込んだ売人がおもむろにダンベルを持ち上げているのだが、あれは脱ぐ前にパンプアップさせたかったのだろうか。目の前でやるとバレバレでむしろ悪印象ではないか。

ザ・ヴァンパイア~残酷な牙を持つ少女~(字幕版)

ザ・ヴァンパイア~残酷な牙を持つ少女~(字幕版)

  • 発売日: 2016/02/02
  • メディア: Prime Video