オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『アメリカの影』

Shadows, 80min

監督:ジョン・カサヴェテス 出演:レリア・ゴルドーニ、ベン・カルーザス

★★★

概要

ニューヨークを舞台にした即興演出映画。

短評

ジョン・カサヴェテスの監督デビュー作。彼がインデペンデント映画というジャンルを確立したと言われており、映画史において非常に重要な一作なのだとか。ジム・ジャームッシュの最初期の作品なんて、ほとんど模倣に近いレベルで影響を受けていることが窺える。いわゆる“物語”が存在するタイプの映画ではなく、若者たちの無軌道な生き方や男女の恋愛模様といった人々の生活を「切り取る」ことで一本の映画が成立している。そこにクールなジャズ(チャールズ・ミンガス)を乗せれば抜群に画になってしまう。なんと言っても舞台がニューヨークなのだから。

あらすじ

ニューヨークに暮らすヒュー、ベニー、レリアの三人兄妹。ヒューは歌手なのに三流クラブで司会をさせられ、ベニーは仲間とたむろし、レリアは白人青年と恋に落ちる。

感想

本作がアメリカで公開された1959年と言えば、『ベン・ハー』が輝いていた時代である。三十郎氏は映画史に詳しくないため想像でしかないのだが、本作が生き生きと切り取った庶民の生活は、ハリウッドがスポットライトを当てず“影”となっていた部分なのではないだろうか(影の第一義的な意味は差別の方なのだろうが)。きっと本作は「こんな映画の撮り方もある」ということを証明してみせたのである。派手なスペクタクルや美男美女のロマンスがなくとも映画は撮れるのだと。それにより映画というメディアの幅が広がり、10年近く後のアメリカン・ニューシネマ等の出現にも繋がったのではないだろうか。

本作の製作とヌーヴェルヴァーグの発生が同時期というのは、なにか関連があるのだろうか。40年代のネオリアリズモなんかの影響があったりするのか。それとも社会的な背景なのか。

映画史的に価値があるとされ、(少なくとも批評家や制作者たちなら)観ておく“べき”映画であっても、一介の観客に過ぎない三十郎氏にとっては「自分が面白いと感じるか」が全てである。こうやって色気を出して映画を選んだ時は往々にして「よく分からんなあ」となりがちなのだが、本作の登場人物たちが見せる「生き方の模索」のようなモチーフは、現代にも通ずるところがあって楽しめた。「白い黒人」に象徴されるような“定まらなさ”を、人は皆抱えながら生きている。レリアの言うように「私は私のもの」でしかないわけだが、他者や社会と関わると自分の帰属を意識し、自分が脅かされる。

本作はオシャレな雰囲気映画としても非常に優れている。価値やテーマなんて無視して、そこだけを評価してもよいと思う。三十郎氏は“物語”のないタイプの映画がどちらかと言えば苦手なのだが、くわえタバコしながらニューヨークを彷徨くだけでも画になっており、意味があるのかないのか分からない会話も非常に生き生きと感じられた。きっと一度気に入れば何度でも観られて、その度に好きなシーンが増えていくに違いない。この手の格好いい生々しさを破綻させずに成立させるとなると、実は相当なバランス感覚が必要なのだろう。

ロマンスと知性の対決で、先行リードのある知性が無残に敗北していて笑えた。確かにデヴィッドはモテなさそうである。

アメリカの影 (字幕版)

アメリカの影 (字幕版)

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