オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ほえる犬は噛まない』

플란다스의 개(Barking Dogs Never Bite), 109min

監督:ポン・ジュノ 出演:ペ・ドゥナ、イ・ソンジェ

★★★

概要

ペット禁止のマンションから三匹の犬が消える話。

短評

専門家により安全に管理された犬が登場するポン・ジュノのデビュー作(本物っぽいシーンもあるが果たして)。登場人物の思惑や行動が微妙に空回ったりすれ違ったりする飄々としたコメディだった。そこに乗っている社会的背景や演出を、その後の監督作品を知っているために「この辺りがポン・ジュノらしいな」と三十郎氏でも楽しめるわけだが、当時は無名だったろうにちゃんと才能を見抜いて高く評価できた関係者たちの見る目は「やはり違うなあ」と感心する。原題は「フランダースの犬」という意味。

あらすじ

(人文系)大学教授の職を得られず、妊娠中の妻ウンシル(キム・ホジョン)の実質的なヒモとして燻っているユンジュ。ペット禁止のマンションに響く犬の鳴き声に悩まされていた彼は、偶然見つけた犬を(殺す勇気もないので)地下室に監禁する。その犬を飼い主の女子小学生が探していると知ったマンションの事務員ヒョンナム(ペ・ドゥナ)。仕事に退屈していた彼女は犬の捜索に協力することに。そして、次の犬の失踪事件が起きる。

感想

ユンジュの物語は、吠えていたのは別の犬だと判明するも監禁した犬は警備員に犬鍋として食われており、犯犬を誘拐して今度こそ殺害(屋上から放り投げる)、しかしウンシルが犬を買ってきて、これが消えて次は自分が探す側に回るというもの。ヒョンナムの物語は、テレビで見た果敢に強盗と戦う銀行員に憧れ、犬を投げ捨てる男(=ユンジュ)の姿を目撃し、彼を捕まえて英雄になろうと奮闘するもの。三十郎氏的に犬殺しは大罪だが、ユンジュの犯行もヒョンナムも冒険も、どちらも鬱屈した小市民的感情が根っこにある。

ユンジュは、妊娠により解雇された妻の退職金を学長への賄賂に使い(銀行振込だと逮捕され、ケーキの底に札束を入れるとイチゴが収まらなくなるので要注意)、最後は見事に教授職を得る。一方で、妻が犬を買った理由を知ったことで改心と後悔の様子が窺え、待望していたはずの教授となった彼の表情に晴れやかさを感じることはなかった。ヒョンナムは、見事に犬を奪還してもニュースでインタビューがカットされ、泥酔したユンジュの犯行自供にも気付かず、犬探しのために離席し過ぎて仕事をクビに。犬を探してあげた女の子はあっさりと次の犬を飼っている。報われるべき者が報われず、報われるべきでない者が報われているように見える。

「なんだかなぁ~」と釈然としない気持ちが残るものの、何が正しいのか分からないという人生や社会の複雑さを象徴するふんわりとした結末だったように思う。警備員曰く「規則を守らない国」で律儀に規則を守っていると損するばかりである。ペット禁止でも暗黙の了解で皆が飼っているなら自分だけ我慢しても無駄だし、賄賂が悪であろうと払わなければ教授になれないなら払うしかない。皆何かしらの葛藤を抱えながら生きている。

パラサイト』と関連させると、本作の主人公二人は半地下に近い立ち位置だと思うのだが、ユンジュは最後に地上へと上がっている(映画の最初と最後に彼の目に映る景色はどう違うのだろうか)。この変化は、格差拡大が進んでいることを示すのか。それとも監督の「諦め」という感情の現れなのか。

最高に面白かったシーンが三つ。一つ目は、ユンジュがウンシルに「ちょっとそこのコンビニまで行ってきて。50mの距離でしょ」と言われ、「いや、100mはある!」と反論し、トイレットペーパーを転がして距離計測するシーン。二つ目は、警備員が「ボイラー・キム」の怪談を語るシーン。これは特に本編とは関係ないような気もするのに強烈な印象が残った。そして三つ目は、婆さんの遺書の「屋上の切り干し大根を食べてくれ」。怪談のシーンはホラーだし、ユンジュの犯行がバレそうになるシーンはスリラー、ユンジュとウンシルのヒューマンドラマや社会派要素、そして全編に散りばめられたコメディ。盛り沢山がポン・ジュノらしい。

ヒョンナムの友人のデブ女が車のサイドミラーを破壊する飛び蹴りが美しかった。韓国映画の華は飛び蹴りである。彼女がしている鍋の蓋を利用してラーメンを食べる方法をネットで見たことがある気がするのだが、ポピュラーな方法なのだろうか。韓国のラーメンは少し冷まさないと辛くてむせ返るといった理由がありそう。

学長が酒をトルネードさせて飲んでいたが、あれはどうやるのだろうか。

消毒剤を撒くのは日常的光景なのだろうか。特定の背景がある描写なのか。

ほえる犬は噛まない(字幕版)

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