オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『クロノス』

Cronos, 92min

監督:ギレルモ・デル・トロ 出演:フェデリコ・ルッピ、ロン・パールマン

★★★

概要

永遠の命は用法と用量を守って使用しましょう。

短評

1993年のギレルモ・デル・トロ長編映画デビュー作。本作に登場するクロノスなるアイテムは、使用者の血を吸って相手に永遠の命を与えるというぜんまい仕掛けの代物で、言わばジョジョの石仮面のようなものである。手のひらサイズのクロノスの内部機構を大きなセットとして制作しており、特殊メイク出身のデル・トロらしい造形への拘りが詰まっていた。クロノスの内部には虫がいて、生物と機械の融合という気持ち悪さも彼らしい。ロン・パールマンともこの頃からの付き合いである。デビュー作には監督の“らしさ”が詰まっている。

あらすじ

1536年。宗教裁判を逃れてメキシコに渡った一人の錬金術師が、永遠の命の鍵となるものを創り出し、「クロノス」と名付ける。彼は400年もの間生き永らえたが、1936年、事故に巻き込まれて死亡する。彼の家財は競売に掛けられ、クロノスは歴史の闇へと葬られたかに思われた。時は流れ、ヘススという骨董商が売り物の彫刻品の内部に金でできた奇妙な機械を発見する。それこそがクロノスだった。

感想

説明過少な部分があるので分かりづらいが、簡単にまとめると、老人がクロノスの力で吸血鬼となるも最後は人間として死ぬ話である。物語に絡む登場人物は4.5人といったところで、主人公の骨董商ヘスス、彼の孫娘アウロラ(タマラ・サナス)、クロノスを狙う富豪の老人──とその甥アンヘルロン・パールマン)。0.5はヘススの妻メルセデスである。メルセデスはヘススの最期を看取る家族と言う意味では必要な存在だが、アウロラちゃんほど重要なわけではない。アンヘルも実働部隊として目立っているだけで、実質三人だけで成立しそうな話だが、ヘスス─アウロラと同じく老人─アンヘルの関係が描かれていることが重要に思える。

ヘススは永遠の命のことなんて知らずにクロノスを使用してしまい、望まずして人間の血が必要な身体に(床についた血を舐めるシーンは、彼が老人でなく美女であればフェティッシュに感じられただろう)。そこに永遠の命を欲する老人という悪役が登場する辺りは分かりやすい。意図せず手にしてしまった者と求めてやまない者との対比である。悪役の二人は仲が悪い。ヘススとの対決で瀕死となった老人に、甥のアンヘルが大喜びでとどめを刺す。一方のヘススはクロノスを破壊し、家族に看取られながら逝く。ここも対比になっている。老人の動機が読み取りづらいのでよく分からないが、永遠の命なんかよりも人間らしく生きて死ぬことが大切なのだろう。人との繋がりがなければ永遠の命など無価値である。

アウロラちゃんが一言も喋らないので『シェイプ・オブ・ウォーター』のイザベルよろしく口を利かない女性というのがデル・トロにとって何か意味のあるモチーフなのだろうかと考えていたら、最後に一言だけ発してくれた。彼女の唯一の言葉は「おじいちゃん」である。その“家族”の言葉は、ヘススが人間として生き、そして死ぬことを象徴しているように思う。このインパクトのためだけに黙っていたのだろうか。

上記のような物語性も重要なのだろうが、三十郎氏のような短絡的な観客が期待するのは、やはりなにはなくともビジュアル面である。少ない予算でクロノスに全振りした感はあったものの、クロノスの入っている彫刻の目の部分からゴキブリが湧き出てきてギョッとさせられたり、納棺師が死に化粧するシーンがあったりと、独特のダークでグロテスクな描写は楽しめた。

老人の持つクロノスのルールを記した本をちゃんと読んで使用していれば別の展開もありえたのかと思ったが、錬金術師の自宅には逆さに吊るされて血抜きされている人間の死体があったので、永遠の命はどうやっても吸血鬼となることと引き替えだったのだろう。この錬金術師の自宅は、たしか『ギレルモ・デル・トロ 創作ノート 驚異の部屋』に登場する彼の作業用邸宅、荒涼館のモデルではなかったか。

クロノス HDニューマスター版(字幕版)

クロノス HDニューマスター版(字幕版)

  • 発売日: 2020/09/09
  • メディア: Prime Video