オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『カサンドラ・クロス』

The Cassandra Crossing, 128min

監督:ジョルジュ・パン・コストマス 出演:ソフィア・ローレンリチャード・ハリス

★★★

概要

テロリストが逃げ込んだ鉄道車両で肺炎が蔓延する話。

短評

1976年の感染症映画。しかも肺炎である。と言っても鉄道車両の外には感染が広がらないため、パンデミック映画としての恐怖はなかった。また、肺炎の症状も致死性の高さを煽った割には放っておけば自然治癒するというご都合主義である。とっくに現実が映画を超えてしまっているが、当時としてはこれでも危機感たっぷりだったに違いない。(往年過ぎて誰だか分からなくなっている人も多い)豪華なキャストに感心しつつ、気楽にツッコみながら観られる鉄道パニック映画に仕上がっている。

あらすじ

ジュネーブのIHO(国際保健機構)本部に担ぎ込まれた急患──ではなくテロリストが、アメリカの研究室を爆破しようとする。警備員が駆け付けて爆発は防がれたが、三人のテロリストの内、一人は死亡、一人がその場に倒れ、最後の一人が研究室で培養されていた細菌を浴びて逃走する。倒れた一人は肺炎の症状が出て死亡し、その菌はアメリカが秘密裏に研究していたものだと判明する。逃げた一人はストックホルム行きの鉄道に乗り込み、車内で感染が拡大する。

感想

WHOでなくIHOなのは、事態の隠蔽に加担する悪役側であるために名前が使えなかったのだろうか。マッケンジー大佐(バート・ランカスター)が指揮を執り、鉄道車両ごと病原菌の情報を消し去ろうとするのを、乗車していた医師のチェンバレンリチャード・ハリス)が阻止するというスリラーが本編である。言ってしまえば感染症はおまけである。

本作の肺炎菌は潜伏期間が非常に短く、発症から死亡までがマッハである。適度な潜伏期間で感染経路の特定を困難にしつつ、無症状者と軽症者にバラ撒いてもらう方が菌の繁栄には効果的なのではないだろうか。感染の恐怖の割には比較的抑え込みやすそうだと思わなくもない。医者は「ヨーロッパ全土が汚染される」と危惧しているが、アメリカ的には敵国を局地的に壊滅させることを想定した生物兵器開発だったのかもしれない。もっとも映画的には「感染後即発症からの即死亡」が分かりやすい恐怖であり、題材としても先見性があったのだろう。

そんな映画外の事情が頭をもたげながらも、防護服を着た兵士たちが乗り込んできて、次々と発症していく乗客たちが襲われる不安や恐怖は尋常ではないはず(窓や扉を溶接して封鎖していく一連のシークエンスが最も魅力的)。一方で、第三者視点で「隔離だ!とにかく隔離しろ!」と思ってしまう自分がいる。映画だとマッケンジー大佐は悪役だが、疎開者を批難する地方民が心の内で望んでいるのは彼のような存在なのかもしれない。現実世界で当事者になりかけているため、映画の世界の当事者になり切れないという悲しい現象である。

鉄道全体を隔離してポーランドの隔離施設に乗客を送る。その直前にある橋(カサンドラ・クロス)の強度が怪しいという情報を得たチェンバレンが軍部に反抗する。映画なので主人公ポジションのチェンバレンが正しかったというラストになるのだが、彼は乗客と車掌の「あの橋はヤバいよ」という証言だけを頼りにヒステリックに行動しており、確たる証拠もないのに兵士と銃撃戦を繰り広げ、平気で死者を出している。「神経外科医だけど専門領域とか無関係なんだぜ!」とリーダー気取りの大立ち回りである。もし橋が崩落しなければ、別の意味で“人間が怖い”タイプのパニック映画になっていたに違いない。前方車両の乗客を一切考慮せず見殺しにするのもサイコパスっぽくて怖い。

チェンバレンに情報提供する老人がユダヤ人で「ポーランドで隔離されるのは嫌だ」と自棄になって吹っ飛んだり、兵器商人マダム(エヴァ・ガードナー)の愛人兼薬の売人兼都合よく登山家な若き日のマーティン・シーンが格好いいところを見せそうだったのに吹っ飛んだりと、なんだかんだで面白いところもある映画だった。

COVID-19もこれくらい簡単に治癒すればいいのになあ……。

カサンドラ・クロス (字幕版)

カサンドラ・クロス (字幕版)

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