オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『エクスペリメント』

The Experiment, 96min

監督:ポール・T・シュアリング 出演:エイドリアン・ブロディフォレスト・ウィテカー

★★★

概要

被験者を看守役と囚人役に分けた行動実験。

短評

スタンフォード監獄実験の映画化。ドイツ映画『es[エス]』のリメイクである。看守役の行動が元々の性格に依拠しているという点で実験の重要な要素が抜け落ちているし、コンパクトにまとめた分だけ心理状態の変化が雑過ぎるというダメな映画化ではあるものの、純粋なエンタメと割り切って観ればそれなりに楽しめなくもない一作である。紳士的な性格から凶暴な看守へと変貌するフォレスト・ウィテカーは見た目の通りに怖い。しかし、元アメフト選手で巨漢の彼がエイドリアン・ブロディにボコられるのは解せない。

あらすじ

州の予算削減の煽りを受け、職場をレイオフされたトラヴィスエイドリアン・ブロディ)。反戦抗議集会で出会った美女(マギー・グレイス)に「インドに行くの。あなたも来ない?」と誘われるも、彼には金が無い。「被験者募集 行動実験 2週間 1日1000ドル」の新聞広告を見つけて応募すると見事合格。被験者を看守役と囚人役に分けて生活させる実験がはじまり、看守役が暴走する。

感想

先日観た『ヒトラーの忘れもの』と同じく「立場が人を作る」系の話である。しかし、看守役に任命されて最もはっちゃけるバリス(フォレスト・ウィテカー)は、42才の子供部屋おじさんであり、そのコンプレックスの裏返しで暴走しているようにしか見えない。彼が初めて看守として囚人を服従させた時、満足と興奮が極まり、なんと激しく勃起している。暴力的な性行為ではなく暴力そのものに性的興奮を覚える変態さんである。

他の看守は役“どう見ても性悪そう”な奴らが揃っていて、「そりゃあ調子にも乗るだろう」と。看守と囚人がそれぞれの役割を全うしようとして権力関係を形成するのではなく、単に日頃の鬱憤を晴らしているようにしか見えなかった。これはスタンフォード監獄実験の映画化としては致命的な欠点だと思う。誰しも立場に従って行動するという事実が怖い実験ではなかったのか。せっかく生真面目なバリスを主人公格に据えても、彼の変化の様子が描かれなければ、元からの悪漢のチェイスと同じで意味がない。

OPでミジンコから動物まであらゆる生物が争う様子を映し、最後は「人間はサルから進化してると思うか(トラヴィスの答えはイエス)」の言葉で締めくくられる。これも焦点のズレた演出だと思うが、これだけ主張するなら、逆に「人間は争わずにいられない」みたいな話がしたかったのだろうか。確かにハリウッド映画的には人間が争わないと地味になって困るだろう。三十郎氏だって暴力シーン目当てで本作を観たし、囚人たちの反乱にはスカッとした。

監視カメラの死角となる部屋があったり、持ち込み厳禁のはずの荷物に看守が自由にアクセスできたりと、本作の実験は元より破綻している。とは言え、本家の実験もかなり酷かったようである。看守の暴力が始まっても実験の責任者ジンバルドーが「ウッヒョー!」と喜んでしまい、実験の中止が遅れたのだとか。この場合、実験内の看守役と同じく、ジンバルドーが“観察者役”という立場の影響を受けたという解釈ができるだろうか。深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのだ。

バリスがトラヴィスに屈辱を味あわせるため、強制的に丸刈りにしている。そして、なぜか本人も自らスキンヘッドに。三十郎氏は囚人役でも看守役でもないが、散髪に行くのも不要不急なリスクということで、バリカンを導入して丸刈りにすることにした。生え際の戦線が最終防衛ラインを突破されたら坊主頭にするつもりだったが、一足早く自らの寒々しさを白日のもとに晒すこととなる。目を逸らしてきたものと対峙せねばならぬため、鏡の前で屈辱を味わうかもしれない。ストレスで免疫が落ちないか心配である。その心配で更にストレスが……。

 

*追記

無事に坊主頭となった。9ミリである。襟足と耳の裏を刈り上げるのに難儀したが、いずれ慣れるだろう。三十郎氏がメガネを着用していることもあり、「風刺画に出てくる旧軍の兵士みたいだな」というのが率直な感想である。学生時代にマーク・レントンに憧れて美容院でやってもらった時とは随分雰囲気が違う(当時は染髪していたし)。肝心の生え際については、正面からだとそれほどでもないが、上からだとそれなりに来ているのが分かる。

エクスペリメント (字幕版)

エクスペリメント (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video