オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『犯罪河岸』

Quai des Orfèvres, 106min

監督:アンリ・ジョルジュ・クルーゾー 出演:ジュシー・ドレール、ベルナール・ブリエ

★★★

概要

妻の浮気を疑って夫が間男を殺しに行ったら既に死んでた話。

短評

ウェス・アンダーソンが新作の撮影にあたってキャストとスタッフに予習を課した作品群に含まれいたとのことなので、それならばと(他は『男と女のいる舗道』『悪魔のような女』『快楽』『大人は判ってくれない』)。『恐怖の報酬』が有名なアンリ・ジョルジュ・クルーゾーの作品である。同作と同じく状況はスリリングなのだが、本作は登場人物のすれ違いによる空回りのようなコミカルさが魅力的であった。必死なのに、必死故に、おかしな方向へと話が転がっていく一作である。

あらすじ

歌手の妻ジェニーと伴奏ピアニストの夫モーリス。妻は妖艶な愛想を振りまいて男たちから人気を集め、夫はそれに激しく嫉妬している。とは言え、なんだかんだで愛し合っている二人なのであった。ある日、成金のせむし男ブリニョンが「映画の仕事を紹介してあげよう」とジェニーに迫る。モーリスは妻がブリニョン邸にいる証拠を自宅で見つけ、「野郎!殺してやる!」と銃を手に乗り込むも、そこには既に事切れたブリニョンの死体が転がっていた。

感想

妻は「老人だと思って甘く見てたら襲いかかってきたからビンで殴り殺しちゃった」と友人ドラに告白。夫は「殺そうと思って行ったら既に死んでたんだよ」とこれまたドラに告白。そして、ドラは証拠隠滅に加担。アントワーヌ警部が地道な聞き込みと強引な尋問により捜査を進めていくという話である。夫婦が互いのしたことを知らないという状況が本作の鍵を握っている。一件の殺人事件を巡り、四人の思惑が絶妙に交錯し切らず少しずつすれ違っている。これが、喜劇的とも悲劇的ともつかぬ奇妙な人間ドラマを生んでいる。

終盤にこの奇妙さが最高潮に達する。妻は「ブリニョン邸になんて行ってない」と誓ったのに、実はいたことが判明して絶望した夫は手首を切る。一方で、観客も本人も犯人だと思い込んでいた妻が犯人ではないことが判明する(死因は射殺)。自分たちが直接関与していない事件のせいで二人とも右往左往していたのである。ウェス・アンダーソン作品だと、『グランド・ブダペスト・ホテル』でグスタヴが犯人扱いされている展開が似た雰囲気だったような気がする。

警部がパイプたばこに火を点けるシーンにヒッチコック風のサスペンスを感じた。警部が「火を点けるからその紙切れちょうだい」とモーリスに要求するのだが、その紙切れはジェニーがブリニョン邸の住所をメモしていた証拠品なのである。当然警部はそんなことを知らない。モーリスだけが内心ハラハラで心臓が飛び出そうになっている。上手い演出だった。

見つめ合う夫婦の次のショットが鍋から沸き返る牛乳というシーンがあって、「この時代の性描写は随分奥ゆかしい」と微笑ましかった。これは流石に三十郎氏の桃色脳が暴走しているだけではないと思う。 

オーケストラの演奏練習をBGMに警部の尋問と夫婦喧嘩の二つが進行するてんやわんや感が楽しかった。セクシーな衣装のお姉さんが「失礼」とだけ登場するシーンはサービスだったのだろうか。

ブリニョンは、若い女の写真を撮影させるのが趣味の男である。曰く「ピカソマチスの絵なんかよりずっといい」のだとか。そこまで言うのなら、“させる”だけでなく自分で撮影すればいいのに。『血を吸うカメラ』という変態カメラマンが登場する映画の記事にも書いたが、シャッターを切る興奮と快感は射精に匹敵する。最も楽しい瞬間を他人任せにしてしまうなんてもったいない。敢えて自分は手を出さない高度な遊びなのか。それならジェニーにも手出ししなきゃよかったのに。「閨房を覗かせてくれ!」と。

犯罪河岸(字幕版)

犯罪河岸(字幕版)

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