オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『残酷で異常』

Cruel & Unusual, 91min

監督:マーリン・ダービズビック 出演:デヴィッド・リッチモンド=ペック、ミシェル・ハリソン

★★★

概要

死亡した殺人犯が罪を認める会に強制参加させられる話。

短評

一風変わったループもののカナダ映画。原題を直訳しただけの邦題が安っぽくて不安になるが、意外にも面白い掘り出し物だった。ループものにしては細かい設定を設けていないと思われる点が却って強みとなっており、ループの始点やタイミングがバラバラな分だけ各場面の先を読みづらい。最後は細かい設定を明示していないことを活かした力技感があるものの、きれいにまとまっていたと思う。

あらすじ

必死の心臓マッサージの甲斐なく妻メイロンを死なせてしまったエドガー。デブでメガネの冴えない中年親父である。次の瞬間、自分が自宅へ向かう車を運転中であることに気付く。帰宅して食事をとり自室に戻ろうとすると、扉の先は見知らぬ廊下。彼が戸惑いながらも廊下を進むと、集会をしている部屋に辿り着く。そこでテレビの画面に映った老婆が告げる「あなたを待っていたのよ」。

感想

集会で告白大会みたいなのがはじまって、すぐにそこが殺人犯たちの集いであると察することができる。しかし、エドガーは老婆に「あなたは何故ここに来たの?」と問われても「全然分からん」の一点張り。そこで別室に移動させられて、何度かループを繰り返す内に、「自分がメイロンを殺したこと」と「メイロンが自分を殺したこと」を自覚する。

最初は「ちくしょう!俺も殺されたんだから被害者じゃないか!」と憤るエドガーだが、徐々に生前の自分のろくでもなさに気付いていく。彼は、貧困国の女性を金と先進国のビザで釣って妻にし、彼女を支配するために抑圧していた。“殺人”という罪と向き合うと同時に、彼の生き方そのものが罪深かったことに向き合う構図になっている。そうして初めて自らを虚心坦懐に見つめ直し、罪を贖う行動に打って出るのである。

これは一種の地獄だったのだろうか。自分の罪と向き合うのは責め苦かもしれないが、そこから現実を変化させられるのは優しくもあり、天国的でもあった。

画面の老婆やハゲから「まだ早い」と禁止されていた扉が天井にあり、エドガーが巨体に似合わぬ身軽な動きで「俺はループから脱出するぜ!」と逃走を決める。その先で周囲の人視点で自分の行動を見せられるのだが、彼はそこで初めて自分のダメ人間ぶりに気付くことができる。死んだことと殺したことさえ理解できたら、すぐにこのバージョンの世界を見せてしまった方が効率的なのではないか。尺がもたなくなるけれど。

我々非モテ男が本作から得るべき教訓は、「パートナーを求めてはいけない」ということである。非モテ男はどうやったって幸せにはなれないのだ。たとえ何かの間違いでパートナーが見つかったとしても、自信の欠如故に「浮気されるんじゃないか」「捨てられるんじゃないか」と疑心暗鬼になり、エドガーのように支配欲が暴走する結果を招く。これでは自らが不安で不幸になるだけでなく、パートナーまでをも不幸にしてしまう。ずっと一人で不幸でい続けることこそが、非モテ男に唯一可能な最小不幸社会への貢献方法なのである。我々が生み出した幸福の余剰を誰かが享受する。これは悔しいが嫉妬は見苦しい。不毛な誇りを胸に慎ましく生きよ。

メイロンが調理しているメヌードは、豚肉や野菜をトマト風味のスープで煮込んだフィリピン料理らしい。つまり彼女はフィリピン出身である(多分)。彼女の連れ子がイジメっ子から「FOB」と呼ばれているのは、「Fresh Off the Boat」を略した差別用語で、日本語だと「カッペ」辺りが該当するだろうか。

無名の出演者ばかりの中で唯一見覚えのあったジュリアン役のマイケル・エクランドは、『ディヴァイド』で地底人的おネエな倒錯趣味を発揮していた人。

残酷で異常

残酷で異常

  • メディア: Prime Video