Victoria and Abdul, 111min
監督:スティーヴン・フリアーズ 出演:ジュディ・デンチ、アリ・ファザル
★★★
概要
女王陛下のお気に入りはインド人。
短評
ジュディ・デンチが二度目のヴィクトリア女王役を演じた“ほぼ”実話の物語。2010年に発掘された日記を基にした話なのだとか。女王が見せる感情や立場の複雑さが魅力的である一方で、アブドゥルの方の真意は分かりづらいところがあった。もっとも彼の視点で綴られた日記が基になっているということは、彼が心から女王を慕っていたということでよいのだろうか。
あらすじ
インドが英国領になって29年目の1887年。アーグラに住むアブドゥル・カリムと象から落下した男の代役モハメドは、ヴィクトリア女王の即位50周年の式典で記念硬貨モハールを献上する役目を仰せつかる。ボンベイから二ヶ月の船旅を経てバッキンガム宮殿に辿り着き任務を果たすが、アブドゥルが女王に気に入られ、従僕として、そしてウルドゥー語やインド文化のムンシ(先生)として英国に残る。アブドゥルと女王は仲を深めていくが、王室職員やバーティ王太子から激しい反発を受けるようになる。
感想
王室内でのインド人への反発は根強い。アブドゥルの滞在が伸びて女王と二人で会話したり、ウルドゥー語(ムガール帝国のムスリムの言葉。女王にはヒンドゥー語じゃダメなのだとか)を教えているだけでも「一体どうなってんだ!」と慌てふためいているのに、女王が「お前らは権威がないと従わないから、アブドゥルにナイトの爵位をあげる!」なんて言い出すものだからもう大変。「彼をナイトにするなら総辞職します!」と直談判である。この策謀を巡らせている時は威勢がよかったのに、実際に女王に話をするのは下っ端で、女王が皆の前で「辞めたいなら辞めていいぞ」と宣言しても誰も辞められないのは痛快だった。これは女王の立場の強さなのか、それとも職員の信念の弱さなのか。
『二人の女王 メアリーとエリザベス』に出てきた黒人やアジア人の高官なんてありえなかっただろう。
根底にあるのは差別意識の根深さなのだろうが、外部から入ってきた“よく分からん奴”がいきなり重用されたら、元からいた人間がいい気分はしないのは理解できる。その元からいた人間がおべっか使いばかりだからこそ女王は“よく分からん奴”に惹かれたわけで、アブドゥルが善人だったから良かったものの、道鏡やラスプーチンと紙一重の話だとは思う。
宮中の食事会の様子が愉快だった。クソ長い裾を引き摺って歩く女性たちを見て、「豪華」や「壮麗」よりも「阿呆」という言葉が頭に浮かぶ。女王が一皿食べ終わると他の人も下げられるのだが、彼女は早食いなのである。肉は手掴みでムシャムシャ喰らうし、スープは手で皿を傾けて飲んでいる(これはマナー的に大丈夫なの?女王がやればそれがマナーになるの?)。おまけにデザートが来る前には居眠りしている。ティータイムにはかの有名なキュウリのサンドイッチが登場したり、スコットランドでは屋外ティータイム中に雨に襲われたりと、食事のシーンは笑いに事欠かなかった。
本作に登場するバーティが後のエドワード7世で、彼の孫が『英国王のスピーチ』のジョージ6世、その娘が現エリザベス女王である。なんと9人もいるという女王の子女の内バーティしか登場しないのは、王室の系譜に詳しくない三十郎氏には親切設計だったように思う。彼がろくでもない息子として描かれている通り、女王としては長女のヴィクトリアの方がお気に入りだったのだとか。王位の継承過程はとても複雑で、ヴィクトリア女王の王位継承の経緯なんてWikipediaの記事で挫折しそうになる。
アブドゥルの出身地アーグラと言えば、なんと言ってもタージ・マハルである。アブドゥルも「世界一美しい」と断言している。写真は三十郎氏が訪れた際のものだが、右奥のミナレット(尖塔)が修復中であることがご理解いただけるかと思う。この修復の経緯が分かるドキュメンタリーがあるのだが、残念ながら配信終了となっていた。もう修復完了したのかな?ヴェネツィアを訪れた時はためいき橋が修復中だったし、三十郎氏は持ってない男なのである。

Victoria & Abdul: The True Story of the Queen's Closest Confidant
- 作者:Basu, Shrabani
- 発売日: 2017/07/21
- メディア: ペーパーバック

