オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『聖なる酔っぱらいの伝説』

La leggenda del santo bevitore(The Legend of the Holy Drinker), 128min

監督:エルマンノ・オルミ 出演:ルドガー・ハウアー、アンソニー・クイエル

他:金獅子賞

★★★

概要

酔っぱらいの浮浪者が老紳士に200フラン借りる話。

短評

宗教的な背景は分からないが、酔っぱらい男が辿る不思議な運命といった趣の一作。主人公が借金を返済する相手に指定される聖テレーズは、

人の欠点をゆるすこと、他人に惜しみ無く愛を与えること、人に譲ること、誤解されても相手を責めないこと、批判されても甘んじて受けること、苦手な相手のためにも愛をもって祈り善行をなすこと

Wikipediaリジューのテレーズ「小さき道」より

をモットーとしていたとのことなので、ダメ男に許しと救いが与えられた話なのかもしれない。まあ、こんな人生もありなのかな。全ては美しい死へと繋がる。

あらすじ

酒を飲んで、橋の下で寝る生活を送るアンドレアス(ルドガー・ハウアー)。ある日、老紳士が彼に「金にお困りのようだ。200フランあげるから受け取ってください。もし返せるようになったら、聖テレーズ像のあるバティニョール教会に寄付してください」と申し出る。この200フランを切っ掛けに、アンドレアスの身に不思議な出来事が起こるようになる。

感想

金を受け取ったアンドレアスが注文するラム入りコーヒーの価格が一杯12フランなので、200フランだけではすぐに胃の中に流れ込んでしまう。ところが、店で鏡に写る自分の姿のみすぼらしさに気付いて髭を剃り、隣の客と仲良くなって仕事を貰ったりと、200フランを“切っ掛け”にして人生が好転を見せる。一方で、聖テレーズとバティニョール教会の名前をちゃんとメモして返済にいくつもりはあるのに、その度に邪魔が入って教会に辿り着けない。良くも悪くも“転がっている”感のある展開で、”数奇な人生”と呼ぶのが相応しい気がした。“伝説”とまで呼べるのかは微妙だが、これは後の語り手次第か。

アンドレアスは「ミサに寝坊したから次のミサまで飲んで待つか」というタイプの常に目の周りを赤く腫らした酒飲みである。彼は口数が少ないのだが、元炭鉱夫で、女を巡って男を誤って殺し、国外追放の憂き目に遭っているという過去が少しずつ明らかになっていく。世捨て人に見えるが「自分はこれでも紳士だ」と主張する彼の人の良さが、ダメ男ながら憎めなくて、最後は死んでしまうのに妙に心温まった。

ヨレヨレのスーツに身を包んだアンドレアスだが、彼はやたらとモテる。件の元恋人(?)カロリーヌ(ソフィー・セガレン)に教会前で呼び止められ、食事をし、ダンスをし、ホテルでベッド・イン。旧友カニヤックに世話してもらったホテル知り合ったダンサーのギャビー(サンドリーヌ・デュマ)を「君は美しい」の一言で口説き落としてベッド・イン。もっとも後者はワケアリなのだが、彼女はキラキラしていて猛烈にキュートなので金額分の価値はあっただろう。人生に思い残すこともないだろう。三十郎氏もあんな美人とパリから郊外に出かけてデートしたい。羨ましい。

少々お金を失ったところで気にしないのがアンドレアスの良いところである。持っていれば飲み代に消えるし、そうでなくても困っている人に与えて消える。三十郎氏は小金を手に入れると「何に使おうか」と悩んだり、「とりあえず貯金しておくか」となってしまうのだが、アンドレアスは「とりあえず一杯」の人なので、その分だけ金も人生も回っていくのである。流れに身を任せてこそ経験できる人生もある。

久々に湯船に浸かってハシャぐアンドレアスと、脚立に乗った財布屋の女性店員のふくらはぎを見つめる視線が好きだった。三十郎氏もふくらはぎ愛好家なので、気持ちはよく分かる。

聖なる酔っぱらいの伝説

聖なる酔っぱらいの伝説

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聖なる酔っぱらいの伝説 他四篇 (岩波文庫)