オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ピザ!』

Kaakkaa Muttai(The Crow's Egg), 90min

監督:M・マニカンダン 出演:ラメーシュ、J・ヴィグネーシュ

★★★

概要

どうしてもピザを食べたい兄弟の話。

短評

明るくコミカルな内容でありながら、割とえげつない貧富の格差が描かれたインド映画。三十郎氏には「ピザの味が想像つかない」という状況が想像つかないのだが、この世界にはそんな暮らしを強いられている人が当然のように存在するのだろう。ただ食べられないのではなく、「味の想像つかない」である。この違いは余りにも大きい。もっとも三十郎氏だって名前を聞いたこともない高級料理の味は想像がつかないわけで、最後に「あんまり美味しくない」と言ってしまう兄弟と同じく、ただ生きていく分には大したことじゃないのかもしれない。

あらすじ

インド南部、チェンナイのスラム。(父は収監中なので)母(アイシュワリヤー・ラージェーシュ)と祖母と四人で暮らす兄弟は、学校に行かずに線路で石炭を拾って生活している。彼らの遊び場だった空き地に新しくピザ屋がオープンし、開店イベントには映画スターも訪れる。「どうしてもピザを食べたい!」と憧れる兄弟だが、ピザの価格は300ルピーから。兄弟の石炭拾い一ヶ月分である。彼らはなんとかしてピザを食べようと奮闘する。

感想

原題の『Kaakkaa Muttai』だが、「Kaakkaa」が「カーカー」と鳴く烏で、「Muttai」は卵の意味なのだろうか。もし正解ならタミル語の烏の表現が面白すぎる。ピザを食べたい兄弟は、米を親烏に餌付けして、その隙を狙って巣から卵を回収し、生のまま飲み込んでいる。ロッキーもかくやの逞しさ。

その逞しい兄弟がピザのために奮闘するのだが、ただピザを食べるという行為の前に立ちはだかる壁が余りにも高い。第一に、高価である。第二に、なんとか金をかき集めても、彼らには宅配ピザを届けるべき住所というものが存在しない。第三に、店に出向くも服装が汚くて警備員に追い払われる(ピザを食べに行くための服がない)。第四に、再度金を貯めて服を買いに行っても、モールが綺麗過ぎて入れない(ピザを食べに行くための服を買うための服がない)。ただピザを食べたいだけなのに……。あらゆる局面において貧困という現実が突きつけられる。ピザ自体よりもこの過程が厳しい。

兄弟とピザの関係以外にも様々なシーンで貧富の格差が見て取れる。兄弟は富裕層の子供と仲良く会話しているのだが、彼らは柵に隔てられており、無邪気な子供の間にさえも決して超えられない壁を感じる(飼っている犬の種類や腕時計などで対比が描かれる)。スラムのチンピラがピザ屋を脅迫しようとして、自身の見積もりよりも遥か高額を提示されるシーンはコミカルなのだが、これも金銭面の価値観が根本的に異なっていることを示すエピソードである。微笑ましかったり笑えたりするシーンにまで格差が自然に溶け込んでいる。想像を絶する根深さである。

もっともそのインドが10年後には日本のGDPを追い越そうかと言われているわけで、我々日本人の方が「想像がつかない」側になっているかもしれない。

祖母がドーサにトマトとピーマンを乗せて作ったピザもどきを「これはピザじゃない」と兄弟が断じて犬の餌となるのだが(祖母の優しさを無下に……。でも気持ちは分かる)、本物を食べてみればドーサの方が美味しかったということになるのか。人は高級品のイメージに踊らされて憧れるが、広告が優秀であるほど広告以上の価値は得られないものである。それでもピザは美味しいと思うが。

三十郎氏が「もうカレー食べたくない」という軟弱な理由で注文したピザの裏にもこんなドラマがあったかもしれないなんて。なお、このピザもスパイシーでカレー的な味がした。

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ピザ!(字幕版)

ピザ!(字幕版)

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