オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ビッグ・フィッシュ』

Big Fish, 125min

監督:ティム・バートン 出演:ユアン・マクレガーアルバート・フィニー

★★★★

概要

父が息子に聞かせるホラ話。

短評

映画館で観た時に大いに感動し、その後ずっと再見していなかった映画を自宅で観る時には、ある種の緊張感を伴うものである。「大したことなかったらどうしよう……」とか「良い思い出を台無しにしたらどうしよう……」と気を揉んで、なかなか一歩を踏み出すことができない。公開から16年近く経っているのか……。しかし、本作にそんな心配は無用だった。ティム・バートンの作家性と物語のテーマが見事に合致した一作だと思う。三十郎氏の父にはまだまだ健在でいてもらわねば困るが、公開当時よりも自分と父の関係に重ねて考えられる部分も増えたと思う。

あらすじ

ウィル・ブルーム(ビリー・クラダップ)は、父エドワード(若:ユアン・マクレガー、老:アルバート・フィニー)の話が嫌いだった。幼い頃は夢中になって聞いていたが、作り話であることに気付いてからは何度も繰り返される同じ話にウンザリしていたのである。ジョセフィーン(マリオン・コティヤール)との結婚後は疎遠になり、母サンドラ(若:アリソン・ローマン、老:ジェシカ・ラング)を通じて連絡を取るだけになっていた。しかし、エドワードの病状が悪化したとの一報を受け、ウィルは父の待つ実家へと戻る。父に残された時間は少ない。

感想

本作を観ながら思い出したのは、森見登美彦の『熱帯』である(一時期はこの本の話ばかりをしていたが、久々の登場である)。『熱帯』は、“物語る”ことについての物語であった。物語は読む者や聞く者を楽しませ、彼らの中に残り続ける。エドワードの物語も同じなのではないか。ベネット医師のバージョンの話だと、一度聞いても興味を持たずに忘れてしまうだろう。それがエドワード版の場合、魅力的な語り口で何度も語り聞かせることで、ウィルは内容を完全に記憶している。物語を通じて彼らは繋がることができ、そして物語がある限りエドワードは生き続けるのである。エドワード自身が物語になるとは、そういう意味だろう。

『熱帯』には「私の『熱帯』だけが本物なの」という台詞が出てくる。誰しもが自分だけの『熱帯』を持っている。物語は無から生じるのではなく、自分の内から生まれるのである。本作においても全てがウソではなかったことが徐々に明らかになり、最後にウソの中にあった真実が結実する。エドワードはちゃんと自分のことをウィルに伝えていたのである。このシーンは感動で震える。

サンドラ・テンプルトンを巡る描写は、ロマンチック・エンジンが全開である。三十郎氏の心の中に住む乙女が猛烈に疼く。目が合った瞬間に“時が止まる”を文字通りに体現するシーン(時間停止もののアレとは違ってちゃんと静止している)。(もう厳しいのかもしれないが)人生で一度はあんな瞬間に巡り合ってみたい。そして、パッケージにも使用されている辺り一面の水仙の花(青のスーツと淡い青のドレスも映えている)。この光景に胸がときめかないようであれば、その人は心が死んでいる。彼の話は誇張されているが、彼がサンドラに出会った時の感情、そしてサンドラが彼にプロポーズされた時の心象風景は、正に話の通りだったに違いない。

寓話的な部分は、幻の町スペクターにおける靴の扱いだろうか。スペクターは誰も靴を必要としない程に居心地が良い。靴がないまま出ていくのは大変に辛いが、そのままでは小さな池の大きな魚である。他にも大切な教訓が込められているのだろう(最も重要なのは物語るという行為そのものか)。だからエドワードは何度も語り聞かせた違いない。三十郎氏も何度も観るべきなのかもしれない。たとえ手遅れだとしても。

エドワードに対する100%の礼賛になっていない構成は上手かったと思う。空想の中の女が幸せにしてもらえなかったことから分かるように、ウィルたちが選ばれた存在であるという事実が、エドワードの彼らへの愛を強調している。

ウィルがエドワードと疎遠になった理由は、作り話が嫌になったという以外に、社交的で皆から愛される父へのコンプレックスもあったのではないかと思う(三十郎氏に言わせればフランス美女と結婚している彼がコンプレックスを抱く理由はない)。これは三十郎氏の父が社交的で、自身が内向的な息子であるという構図が感じさせるだけだろうか。 

ドン・プライスがただ気の毒だった。

八歳の美少女ジェニーを演じているヘイリー・アン・ネルソンは、現在は女優として活動していないようである。本当のことを知らないままにしていおいた方がいいこともある。

ビッグ・フィッシュ (字幕版)

ビッグ・フィッシュ (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
 
ビッグフィッシュ―父と息子のものがたり

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