オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ヘイトフル・エイト』

The Hateful Eight, 168min

監督:クエンティン・タランティーノ 出演:サミュエル・L・ジャクソンジェニファー・ジェイソン・リー

他:アカデミー賞作曲賞(エンニオ・モリコーネ

★★★★

概要

雪山の山荘に集う八人+α。

短評

100分にまとめられる話に三時間弱も掛けた一作である。タランティーノの映画の大半は愉快な無駄で成り立っているが、それが最大の魅力というのは稀有な才能である。他の監督で三時間弱の密室劇と聞けば観るのを躊躇するだろう。三時間弱の長尺をなんだかんだで楽しめてしまうということ自体が凄いが、実績を積んだタランティーノに許された贅沢という気がする。本作は、平坦なペースの物語の中に痺れるのか緩いのか分からない不穏さと雑な暴力が混在しており、それらが誘うシニカルな笑いが癖になる。

あらすじ

南北戦争終結後のワイオミング。吹雪の迫る山道を賞金稼ぎのルース(カート・ラッセル)が、賞金首のドメルグ(ジェニファー・ジェイソン・リー)を連れて馬車を急がせていた。道中で北軍少佐のマーキス(サミュエル・L・ジャクソン)と自称新保安官のマニックスを拾い、休憩所であるミニーの店に辿り着く。ミニーは留守にしており、店には先客たちがいた。使用人のボブ、死刑執行人のモブレー(ティム・ロス)、帰省途中のカウボーイのゲージ(マイケル・マドセン)、南軍将軍のスミザーズ。どいつも腹に一物ある八人である。

感想

イングロリアス・バスターズ』『ジャンゴ』、そして本作を含む2010年代のタランティーノ作品にはちゃんとストーリーがあり、三十郎氏はそれらの“見やすさ”が気に入っている。彼の作品の中では恐らく『イングロリアス・バスターズ』が最も“ちゃんと”していて、そこをピークに、本作は「魅力の半分が会話」のタイプに回帰しつつある印象を受ける。

これがどう魅力的なのかを表現する能力を三十郎氏は残念ながら持ち合わせていない。「このシーンが面白かった」とは言えるが、どう面白かったのかまでは実はよく分かっていない。台詞回しなのかリズムなのか(「The president of the United States of America?」「Yeah」のやり取りが「The president of the United States?」「Yeah」「Of America?」「Yeah」になるだけで強烈な面白さが生まれる)。とても分かりやすい話であり、単純に面白い映画でもあるのに、ある種の難解さを秘めているのである。これを的確に表現できるようになれば、三十郎氏の文章力が成長したと言えるだろう。多くの映画制作者たちが真似しようとして失敗しているわけで、絶対に無理だとは思うが。

それでも好きなシーンを書き残しておこう。一つは、マニックスが将軍とマーキスの通訳を務めるシーン。当然両者共に英語を話すので無意味であり、最終的にはマニックス無しで会話するようになる。何度観ても笑える。もう一つは、ルースの吐血シーン。びっくりするほど豪快である。それまではドメルグを雑に殴りつけていた彼が、逆に雑な暴力描写によって処理されてしまう。タメのない唐突感は普通嫌われると思うのだが、タランティーノの場合は許せてしまう。笑える暴力描写の特筆性である。

密室劇としてはどうだろう。ノリがコミカルなので張り詰めた緊張感とは言わないが、グイグイと引き込む力はある。全員クソ野郎な個性的なキャラクターたちのなせる技だろう。彼らの存在そのものが一種の陽動となっており、展開が読めない。また、キャラクターに焦点を当てることで、時間の割に話が複雑になり過ぎていない。ミステリーとして綺麗に落とすわけでもなく完全に力技なのだが、話がとっ散らかっているせいで、逆に綺麗に落ち着く所に落ち着いたような気がする。

御者のO.B.がカウントされていないのを気の毒に思っていたのだが、彼は“Hateful”じゃないからいいのか。

シチューとコーヒーが美味そうだが、他作品のような官能性は感じなかった。

70mmフィルムで撮影されたことが話題となった一作である。劇場公開当時、地元に(デジタルとは言え)IMAXシアターがあるにも関わらず、通常のスクリーンでの上映だったことに三十郎氏は憤慨した。抗議の意味を込めて劇場に足を運ばなかった。映画ファンの中では独自の地位の確立しているタランティーノだが、一般受けするスターを主演に据えず、その上回転率の悪い作品をIMAXで上映するのは敬遠されたのだろう。撮影監督はロバート・リチャードソンで、『キル・ビル』以降多くのタランティーノ作品を担当している。本作でもオスカーにノミネートされたが、三連覇を果たしたルベツキの犠牲になっている。

ヘイトフル・エイト(字幕版)

ヘイトフル・エイト(字幕版)

  • 発売日: 2016/08/16
  • メディア: Prime Video