オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ドント・ウォーリー』

Don't Worry, He Won't Get Far on Foot, 113min

監督:ガス・ヴァン・サント 出演:ホアキン・フェニックスジョナ・ヒル

★★★

概要

車椅子に乗ったアル中の漫画家の話。

短評

依存症を克服するために自分と向き合い、周囲や自分を許すという物語。ジョン・キャラハンという風刺漫画家の実話である。良い話だとは思うのだが、それほど心に訴えかけてくるものはなかった。宗教をベースにした克服ステップ(12ステップのプログラム)が文化的に馴染まないからなのか、漫画を描き始めた理由や描くことが本人に与える影響がよく分からないからなのか、それともガス・ヴァン・サントが苦手なのか。

あらすじ

泥酔と居眠りの混じった凶悪な運転の結果、電柱に激突して半身不随となったジョン・キャラハン(ホアキン・フェニックス)。彼は事故の前から重度のアルコール依存症である。ちなみに、運転手のデクスター(ジャック・ブラック)はかすり傷。事故後も公的な援助に頼った自堕落な生活を送るジャックだったが、とある切っ掛けから禁酒会に通うようになり、得意な絵を活かして風刺漫画を描くようになる。

感想

邦題の『ドント・ウォーリー』だけだといかにもハートウォーミングな映画のタイトルみたいだが、原題の残りは「どうせ歩けないから」というシニカルな意味合いである。原題の一部を省いただけなのに日本的なマーケティング手法が強く出た邦題だと思う。主人公のジョンは原題の通りにシニカルな男であり、そのセンスを漫画に活かすのだが、漫画自体はどう笑ってよいのか分からないものが多かった。

リハビリのプロセスには勃起力の回復が含まれている。下半身不随と聞いて男ならば最初に気にすると思うのだが、実情を知る人は少ないのではないか。担当者がおばちゃんで、割とオープンな感じだったのが衝撃的だった。日本ではどうなっているのだろう。ただし、看護師のリリー(オリヴィア・ハミルトンデイミアン・チャゼルの妻)に「顔に座って」と頼むのはいかがなものか。本人もOKしているし羨ましいけれど、立場を利用したセクハラだろうに。アヌー(ルーニー・マーラ)と付き合えるのも「あなたハンサムね」で片付けられていて、女性の描写はかなり都合よく済まされていたように思う。イケメンは得だな。イケメンとして描かれていないと思うが、実際はどうだったのだろう。

もっともジョンはそういう男なのである。決して褒められた人間とは言えないが、そんな彼が「自分を許す」という行為に意味があるのだと思う。自分がクソ野郎であるという前提に立つ時、過去や周囲もクソだから自分もそうなのは仕方がないとなりがちである。ここで翻って、周囲にはいい人もいるし、自分をクソ野郎扱いして自堕落になる必要もない──という結論に達することができれば、依存症克服のプロセス完了なのだと思う、……多分。とにかく自分を見つめ直すことが重要である。理屈は分かるが、本心から「許す」ことは難しいのだろうな。映画の最後の部分は好きだが、「許し」というキーワードがキリスト教的でピンと来ないところもあった。

禁酒会の主催者ドニー(ジョナ・ヒル)は老子好きでゲイのヒッピーである。彼が「大いなる力」と口にすると胡散臭く聞こえるのだが、これ自体は12ステップのプログラムに一般的に含まれているものらしい。参加者が「私はアルコール依存症です」と認めた上で「断酒何日目です」と報告する。現代はネット上のコミュニケーションが増えているが、こういう会は生身の人間が集まるのが大切なのだと思う。匿名コミュニティで「今日で断酒100日を達成しました」と報告しても、「俺なんて200日だぞ」とマウントを取りたがる奴が出てきて逆効果になるだろう。三十郎氏は映画の感想について匿名だからこそ好きに語れると思っているのだが、やはり生身のコミュニケーションが重要な場面もある。

事故前(アル中)、事故後(アル中)、事故後(断酒挑戦中)、事故後(断酒)と時系列が入り乱れている。見分けるポイントはジョンのメガネが変わっている点だろうか。

パーティーでビールに蒸留酒を注いで即席ボイラーメーカーにする辺りは気合の入ったアル中ぶりだった。三十郎氏が森見作品の影響で興味を持った神谷バーでは、電気ブランのチェイサーとして生ビールを飲んでいたが、似たようなものか。

ドント・ウォーリー (字幕版)

ドント・ウォーリー (字幕版)

  • 発売日: 2019/10/18
  • メディア: Prime Video