オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『透明人間』

The Invisible Man, 70min

監督:ジェイムズ・ホエール 出演:クロード・レインズグロリア・スチュアート

★★★

概要

透明人間が暴れる話。

短評

ケヴィン・ベーコンが「男が透明人間になったらやってみたいこと」を実行してくれるポール・バーホーベン版の『インビジブル』ではなく、1933年の映画である。包帯とサングラスで顔を隠した男が「我こそは透明人間なり!」と嘘臭い主張をするだけでなく、アナログな工夫や特撮によって、ちゃんと消えた身体を表現している。1930年代にこんな技術があったのかと素直に感心した。映画としては透明人間を映像化するという一点に全力を上げた一作だと思うのだが、H・G・ウエルズの原作はアイディア自体が秀逸だったのだろうか。

あらすじ

吹雪の夜に酒場に現れた一人の男。男は店主に告げる「部屋を用意してくれ」。宿の女将が部屋に食事を運ぶと、男の顔は包帯でグルグル巻き。ゴーグルもつけたままである。客たちは「脱獄者じゃないか」と訝しむ。数日後、宿代を要求する店主に激怒した男は店主を投げ飛ばし、部屋に乗り込んで来た男たちに告げる「俺は透明人間だ!」

感想

70分とコンパクトにまとめられているように、話自体は透明人間が暴れるだけに近いのだが、ホラーともコメディともつかぬ雰囲気が魅力的である。秘密の実験により透明人間となったグリフィンはケラケラと笑っていて、なぜかとても楽しそうである。最初は元に戻ろうと実験していたグリフィンも「もう透明人間のままでええじゃないか」「むしろ透明人間の方がええじゃないか」と開き直るので、そこに悲壮感はない。彼に襲われた人は災難だっただろうが、鼻をつままれたり宙で身体をグルグルと振り回される姿は、やはりコミカルだった。キーキーと喚く女将もいるように、コメディ色の強い一作である。

襲撃シーンが明らかに被害者側の一人芝居なシーンもあるものの、これはこれで味と言える。透明人間を表現するためのそんな悲しい努力だけではなく、“ちゃんと”透明を表現していることこそが本作の凄さである。当時の観客は大いに驚いたことだろう。当時はアカデミー賞に特殊効果賞(視覚効果賞の前身)がなかったが、あれば文句なしの受賞だったのではないか──と思ったら、『キング・コング』も同じ1933年の公開である。ハリウッドの特撮の歴史は長い。

「物だけが動くシーンはワイヤーを使ったのかな?」とか「雪に足跡がつくシーンは一歩ずつ足跡をつけてはカメラを回して止めてを繰り返したのかな?」と撮影の裏側を想像しながら観るのが楽しい。顔の包帯を外すシーンは胴体の部分に顔を隠しているのかと思ったら、そのまま服も脱いでしまってビックリした。映像合成技術が既に存在したのか。

フローラを演じるグロリア・スチュアートは、『タイタニック』のお婆ちゃんになったローズである。60年以上経過していると言われても分からない。

透明人間(字幕版)

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透明人間 (岩波文庫)

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