オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『スポットライト 世紀のスクープ』

Spotlight, 128min

監督:トム・マッカーシー 出演:マーク・ラファロマイケル・キートン

他:アカデミー賞作品賞脚本賞(トム・マッカーシー他)

★★★★

概要

ボストン・グローブ紙が神父による児童性的虐待事件の全容を暴く話。

短評

アメリカ版プロジェクトX的な趣のある一作。価値のある仕事とはいかなるものなのかを教えてくれる。 神父による児童性的虐待というおぞましい事実。それを隠蔽するために警察・検察・裁判所・弁護士と地域のあらゆる権力を巻き込んで教会が作り上げたシステム。彼らが数々の障害を乗り越えて報道しなければ、今も闇に葬られたまま同じ事が繰り返されていたかと思うとゾッとする──と言っても、今も同じ事をしている奴がいるんだろうなぁ……。

あらすじ

ボストン・グローブ紙の調査報道欄スポットライト。デスクのロビー(マイケル・キートン)率いる、マイク(マーク・ラファロ)、サーシャ(レイチェル・マクアダムス)、マットの四人チームである。新局長バロン(リーヴ・シュレイバー)からの指示で神父による子供たちへの性的虐待事件(ゲーガン事件)を調査したところ、事件の規模の大きさや教会ぐるみの隠蔽といった驚愕の事実が浮かび上がってくる。

感想

第一義的にはこの事件について知ることができたよかったと思う。カトリックというと自分とは遠い存在で無関係のようにも思えるが、実は日本でも神父による性的虐待を告発した例があるのだとか。劇中では、マットの近所に変態神父の隠れ蓑となっている療養所があったり、ロビー在学時の高校の神父が告発対象であったりという展開で、事件がいかに身近な脅威であるのかに記者たちは気付いていく。すぐ側にあるのに知らなかった脅威に気付く。平穏な日常が音を立てて崩れる瞬間。記者としての高揚感は、同時に恐怖を伴うものであっただろう。

教会の隠蔽システムもまたすぐ側にある。教会の隠蔽に手を貸した弁護士はロビーの友人である。そして、それだけに留まらないのが本作の面白いところ。事件を追うロビーたちグローブ紙自身も、ある形で事件の隠蔽に加担していた事実が明らかになる。ゲーガン事件が起きた時には隠蔽システムを暴く材料が揃っていたにも関わらず、重要視せず見落としていたのである。被害者たちの声は、カトリック教会という地域の絶大な権力の前には余りに小さい。それを「大した事件じゃない」と見過ごしたり、「教会は大事だから」と関係者が抑えるようであれば、隠蔽システムが教会だけではなく社会そのものにまで無自覚に及んでいることになる。これは観客への問い掛けでもあるだろう「あなたも加害者になっていませんか」。

大統領の陰謀』と同じく記者の仕事は地味でありかつ地道なのだが、少々叙情的過ぎるくらいの音楽が盛り上げてくれる(手掛けたのはハワード・ショア)。画は地味であるものの、新事実が見つかった時や調査が順調に進んでいる時の記者の心境は、音楽と同じくらい盛り上がっているのだろう。

本作の公開は2015年なのだが、これまで被害者が声を上げにくかった事件を一つ告発すると続々と同様の告発が相次ぐ構図は、近年の「#Metoo」に通ずるところがある。“捕食者”が与し易い相手の弱みにつけ込むという事件の構図も似ている。ハーヴェイ・ワインスタインが告発・追放されたのが2017年なので、これが時を経て同じ映画を観ることの面白さの一つだろうか。自分の観方が変わることもあれば、社会が新たな意味を付与することもある。アカデミー賞作品賞獲得作は、自分の好みや程度の差こそあれ、時代を映す鏡としての性質を備えていると言える。

レイチェル・マクアダムスみたいな美人記者から取材を受けたら、三十郎氏は何でもペラペラ喋っちゃうだろうな。

スポットライト 世紀のスクープ (字幕版)

スポットライト 世紀のスクープ (字幕版)

  • 発売日: 2016/09/07
  • メディア: Prime Video