Anthropoid, 120min
監督:ショーン・エリス 出演:ジェイミー・ドーナン、キリアン・マーフィー
★★★
概要
ラインハルト・ハイドリヒ暗殺計画。
短評
ヒトラー、ヒムラーに次ぐナチス第三の権力者と恐れられた親衛隊(SS)の高官ラインハルト・ハイドリヒを暗殺したエンスラポイド作戦の映画化である。原題の『Anthropoid』は「類人猿」という意味で、ハイドリヒ暗殺の作戦名に由来している。邦題はB級戦争アクション映画のようだが、暗殺までの単純な話ではなく、それがもたらした結果まで描いた本作は、正に作戦全体を扱った一作と言えるだろう。
あらすじ
パラシュート降下でチェコに潜入したヨゼフ(キリアン・マーフィー)とヤン(ジェイミー・ドーナン)の二人。降下時の負傷、接触相手の裏切り、仲介予定者の不在といったトラブルを乗り越えてプラハのレジスタンスと接触する。彼らの任務はハイドリヒ暗殺。チェコのレジスタンスを惨忍な方法で虐殺し、“プラハの虐殺者”と呼ばれる男である。
感想
戦時中の暗殺に成功したナチスの高官としては最高位とのことである。その割には暗殺計画自体はあっさりしている気がする。ハイドリヒ側の内通者から情報を得て行動パターンを把握しておくのは定石として、決行時にハイドリヒが護衛と二人だけでオープンカーに乗っているというのはなんとも不用心である。誰も手が出せないと自信を持てる程の恐怖政治だったのだろうか。この薄い警備体制ならいつでも殺れる感じがしなくもないが、レジスタンスにとっては密告制度が足枷だったのだろう。
それでも暗殺は失敗しかける。弾詰まりである。なんと初歩的な!緊迫したシーンではあるのだが、「なにやってんだ、この馬鹿!」と罵りたくなるようなミスである。また、上述の警備体制もあり、「射手を一人じゃなくて複数にして保険を掛ければいいのに……」と思わざるを得ない。ヤンも手榴弾だけじゃなくて拳銃を持っていた方がよかっただろう。おまけに、一人しかいない護衛はハイドリヒを置き去りにして暗殺者の追跡を開始する。プラハ市民がその気になれば、ハイドリヒをタコ殴りにして殺せただろう。もっとも暗殺の描写は史実に基づいているらしい。
それでも暗殺自体は成功する。諸説あるらしいが、襲撃時に受けた傷が致命傷となったそうである。本題はその先である。ハイドリヒ暗殺成功!めでたしめでたし!……とはいかず、ナチスによる壮絶な報復が始まる。これは暗殺前からレジスタンスが危惧していた通りで、彼らはそれ故に協力を渋っていた。ある者は逃走中に殺され、ある者は身を隠し、ある者は青酸カリで自決し、ある者は拷問を受け……、と作戦成功のハッピーエンドの先に陰惨な展開が待ち受けている。最終的に5000人を超えるチェコ市民が虐殺されたそうである。成功と呼べるのか分からない成功である。
この暗殺を機に連合国はミュンヘン協定を破棄、チェコを同盟国として認めるに至る。イギリスに見捨てられたが故に虐殺され、彼らに認めてもらうために更に虐殺される。直接手を下したのはドイツだが、イギリスに翻弄された国だなあ……。なお、監督のショーン・エリスはイギリス人である。
マリーを演じたシャルロット・ルボンは美人だけれど、特に必要のない役だったかな。映画の登場人物全員が常に必要であるべきかと言えばそんなことはないのだが、美人だと悪目立ちする。