オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ザ・マスター』

The Master, 137min

監督:ポール・トーマス・アンダーソン 出演:ホアキン・フェニックスフィリップ・シーモア・ホフマン

★★★

概要

第二次大戦の帰還兵がカルトの創始者と仲良くなる話。

短評

容疑者、ホアキン・フェニックス』で見せたダルダルの身体から別人のように絞ったホアキンの復帰作。考えてみると、『容疑者、ホアキン・フェニックス』以降に本作や『ビューティフル・デイ』を経て、『ジョーカー』は2010年代に彼が演じてきたキャラクターの集大成だったのだろう。本作は入り口こそPTSD持ちの帰還兵の疎外感だが、PTAの映画なので「擬似親子関係」と「両者のパワーバランス」の話に収斂したということでいいのだろうか。他の映画以上にホアキンが何を考えているのか分かりづらい一作である。

あらすじ

南の島で、毛ジラミを処理し、砂の女に欲情しながら終戦を迎えたフレディ・クエル(ホアキン・フェニックス)。終戦後、彼は故郷に戻って写真屋の職に就くも問題を起こし、次のキャベツ農家でも馴染めずに脱走。ある夜、彼は船上パーティーに忍び込み、パーティーの主催者ランカスター・ドッド(フィリップ・シーモア・ホフマン)に軍隊仕込みのアルコール精製・混合技術を気に入られて仲を深めていく。

感想

劇場公開当時は「サイエントロジー創始者の話」として宣伝されていたように記憶しているのだが、公式には否定されているらしい。サイエントロジーについては、トム・クルーズが入信しており、そのせいでペネロペ・クルスケイティ・ホームズと別れることになったというゴシップくらいしか知らない。他には『バトルフィールド・アース』の原作者がサイエントロジー創始者ロン・ハバートだということくらいか。大まかな教義も知らないので関連性も見出だせないのだが、実際のところはどうなのだろう。モデルにはしたのだろうか。少なくともカルトの内幕を暴露するタイプの映画ではなかった。

帰還兵がトラウマを負い、酒に溺れ、社会から疎外され、その心の隙間を新興宗教が埋めるという話であれば分かりやすいが、そう一筋縄ではいかない。フレディは、百貨店の店内モデル(エイミー・ファーガソン)と折角いい感じになったのにデート中に爆睡し、翌日は客の至近距離まで照明を近づけて激怒させる(特に後者は理由がさっぱりだった)。どう疎外されているのかも分からない、とにかく意味不明な男なのである。

その対としての存在がランカスターなのだろうか。彼は“プロセッシング”と呼ばれる、いかにもカルト的な意味不明な行為をしているが、実際にはそれが洗脳でしかないと理解していたのではないだろうか。だからこそモアという男の指摘にムキになったのではないか。息子ヴァル(ジェシー・プレモンス)もインチキだと理解しているようだし、妻ペギー(エイミー・アダムス)の支配下で役を演じているだけだったのではないか。

“自分でも自分が分からなくて苦しむ男”と“自分が何をしているのか分かっているが故に苦しむ男”。両者は強烈に惹かれ合う。彼らの師弟関係(=擬似親子関係)は、共依存である。フレディには救ってくれる人が必要だし、ランカスターには(自身がマスターであると信じるために)救う相手が必要なのである。

惹かれ合い、決別する。一度目のバイクでの脱走は、ランカスターの新作が駄作ことに失望したのだろうか。ドリス(マディセン・ベイティ)からの時と同じく「逃げた」という要素が強い。二度目は、対面し、両者が納得した上での別れである。このランカスターとの訣別をもって初めて彼は「逃げる」という行為とも訣別したことになるのだろうか。自分でも何を書きたいのか分からなくなってきた。

フレディは、帰国後のロールシャッハ・テストで何でも「アソコ」と「ペニス」と答え、コーズの集会を(心象風景で)おっぱいパーティー化させている。帰国直後は溜まっているだけとも思えたが、南の島では自己処理し、その後は交わるチャンスもあり(その後寝たので交わっていない)、おっぱいパーティーの前にはランカスターの娘エリザベス(アンビル・チルダース)の誘惑を退けている。心理学的にどういう意味があるのだろう。ラストシーンがバーで出会ったぽっちゃり女とのセックスで締められているということは(父性から母性への転向?)、ランカスターから自立するまでの期間は不能であったと考えてよいのか。

“プロセッシング”中にランカスターが「まばたきをするな」と指示するのだが、三十郎氏は我慢できなかった。永遠にやり直しさせられてしまう。何度もやり直させて罪悪感を与えること自体がカルト的なテクニックなのだと知っているから騙されないけれど。このテクニックはカルトに限らず日常的に利用されている。読者諸賢もご用心を。

ザ・マスター(字幕版)

ザ・マスター(字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video