Gemma Bovery, 99min
監督:アンヌ・フォンテーヌ 出演:ジェマ・アータートン、ファブリス・ルキーニ
★★★
概要
短評
『ボヴァリー夫人』繋がりで。田舎暮らしに退屈している“ボヴァリー夫人”なのは主人公マルタンではないかと思ったが、ボヴァリー夫人が“ボヴァリー夫人”だったので、彼は作者のフロベールだったということになるのだろうか。名作文学と下世話な妄想を組み合わせたコミカルなタッチが楽しかった。原作の方も出版当時は破廉恥扱いを受けた下世話な小説だったようだが。
あらすじ
出版業界を辞め、故郷ノルマンディー地方で父のパン屋を継いだマルタン(ファブリス・ルキーニ)。理想の田舎暮らしの夢破れ、繰り返される毎日に退屈していたマルタンだったが、隣にイギリスからボヴァリー夫妻が引っ越してくる。なんと夫の名はチャールズ(ジェイソン・フレミング)、そして妻の名はジェマ(ジェマ・アータートン)である。その日からマルタンは、ジェマをボヴァリー夫人に重ねるようになる。
感想
ミア・ワシコウスカが演じたおバカな小娘のボヴァリー夫人とは異なり、ジェマ・アータートンが演じるボヴァリー夫人は色気がムンムンである。顔は平凡と評されながらも(超美人というわけではないが平凡でもないと思う)、ガードが緩く、体つきが肉感的。パンの生地を捏ねる手つきやハチに刺された時の悲鳴が妙に艶めかしい。健康的にエロいのに熟れている。“そそる女”というやつである。
マルタンは明らかに彼女に惹かれていると思うのだが、ショボクレた初老のパン屋はボヴァリー夫人の愛人役として相応しくない。代わりにイケメンのエルヴェ(ニールス・シュナイダー)が登場である。起こる事が起こって三十郎氏を喜ばせてくれる(ブラジャーをつけたままだが収まりきっていないので見える)。エルヴェの屋敷で一発。夫のロンドン出張中に自宅で一発(では済んでいないだろう)。「犬の散歩に行ってくる」と言い残して一発。下着の上に直接コートを羽織って散歩に出かけるという変態エロ熟女ぶりが大変に素敵であった(「1時間ある」の台詞も良い)。
マルタンのストーキングが虚しくも楽しい。ジェマがエルヴェ邸に入ってから出てくるまでの時間を78分と計測して「何をしていたのか」と妄想を巡らせ(ナニをしていたに決まっている)、その後の食事会で首にキスマークを見つけて確信に至る。ジェマの一挙手一投足を気にしすぎである。スカートから覗く脚を見て喜ぶなんて中学生か。しかし、三十郎氏は彼と同じ“対象外の男”として大いに同情を寄せるのである(この視点だと役得なキスも不要だったと思う)。我々は、見て、妄想して、楽しみ、そして勝手に悲しむしかない。決して深い関係にはなれないので、すぐに次を見つけて楽しもうとするところも同じか。
ジェマは、ボヴァリー夫人であっても“ボヴァリー夫人”ではない。“ボヴァリー夫人”が悦びを与えてくれる男たちを愛し、のめり込んだのに対し、ジェマは「割り切った関係」を望んでいるのが面白かった(それでも男に逃げられると違う反応を見せるのは女の性なのか)。死に方が“ボヴァリー夫人”でないのもコミカル。三段オチで勘違いが解けるのには見事に騙されたが、どうでもよすぎて却って笑えた。
マルタンは自分だけが気付いている一大事だと思っていても、マルタンの妻にはジェマのウキウキな表情でバレバレっぽかった。男と女は生きている世界が違うのだな。