Ghost Stories, 97min
監督:アンディ・ナイマン、ジェレミー・ダイソン 出演:アンディ・ナイマン、マーティン・フリーマン
★★★
概要
心理学者が心霊現象を調査する話。
短評
ホラー・パートが余りに凡庸で、雰囲気の割には困ってしまうくらいに怖くないが、オチが面白かった。心霊現象を描く映画ではなく、心霊現象についての映画だったのか。それにしてももう少し怖がらせて(=楽しませて)くれてもよいのではないかと思うが、オチから逆算すれば、むしろこれが自然ということになるのか。そうであれば映画冒頭の安っぽいタイトル・ロゴにもなんとなく納得できる。邦題が奇譚じゃなくて奇談なのは珍しい言い回しだが、何か理由が?
あらすじ
『降霊術師のウソを暴く』という番組を制作し、インチキ心霊現象の解明をしている心理学者のフィリップ・グッドマン(アンディ・ナイマン)。イギリスの大槻教授のような人である。ある日、彼の元に既に死んだと思われていたキャメロン教授から手紙が届く。キャメロン教授は、フィリップがこの道を志すきっかけとなった人物なのである。教授はフィリップに告げる「お前の仕事はクソだ。全部真実だったんだ。この三つの心霊現象を説明してみせろ」
感想
という流れでフィリップが三つの事件を調査する。一つ目は、夜間警備員のトニー・マシューズが勤務中に遭遇した心霊現象。二つ目は、大学受験に失敗して父の車でドライブしていたサイモン・リフキンドが遭遇する心霊現象。そして三つ目は、自宅でポルターガイスト現象に遭遇したマイク・プリドル(マーティン・フリーマン)の妻が出産中に死んでいたという話。
一件目のトニーが勤務しているのは、かつて女性用の精神病院とのことなのだが、完全に廃墟である。どうしてこんな場所を警備する必要があるのだろうか。盗まれるような物なんてないし、ホームレスが住み着くのを防ぐためだけに人を雇うのは不経済だろうに。とは言え、夜の廃墟である。もうそれだけで怖い──はずなのだが、彼以外にも二件の心霊現象をこなさなくてはならない上、全体のまとめに使う時間まで必要である。従って、怖い場所の雰囲気を十分に堪能させるだけのタメがない。すぐにショッカー・シークエンスへと移行し、舞台を活かせないまま普通のホラー映画になってしまった。
他の二件は廃墟のような舞台的な魅力もなく、普通に短編ホラー映画をこなすだけである(特にリフキンドの話はつまらない)。強いて言えば、マイクがいきなり自分の頭を猟銃で撃ち抜くシーンが唐突さが最も怖い。しかし、どの話も観客を怖がらせるのに十分な尺がない。「こんな怖い話がありました」というだけの話で、「オチが分かると怖い」的な短編ならでは構成でもない。
という感じで「全然怖くないじゃん」と鼻くそホジりながら観られるようなホラー映画が、最後の20分に急激に面白くなる。「ああ、そういうことだったのか」と大いに納得できる。唐突に死んで復活したマイクのキャラクターも急に不気味になり、その混乱は恐怖とも繋がる。3:45という時刻や黄色い服といった反復要素は単に不安を煽るためだけの演出かと思ったら、反復そのものにちゃんと意味があって良かった。それ以外にも色々な数字が登場するので、最初から意識して最後に確認すると楽しめるかもしれない。
「怖くないよ」という話でありながら、その元になる囚われている状況の方が実は怖いというメタ構造への転換の上手さ。これに尽きる一作である。「怖い」現象が起きるのは、「怖い」と感じる人間がいるからなのである。