オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『シークレット・ルーム』

Wakefield, 118min

監督:ロビン・スウィコード 出演:ブライアン・クランストンジェニファー・ガーナー

★★★

概要

自宅ガレージで失踪したおっさんが家族を観察する話。

短評

シチュエーション・スリラーと見せかけたシチュエーション・コメディと見せかけて、他者との向き合い方に問題を抱える男の割と悲しいドラマだったように思う。後に引けなくなっているだけとしか思えない状況やホームレス化した失踪生活を楽しむ主人公は愉快だが、そこから浮かび上がるのは彼のエゴである。女性監督が男の醜さを描いた一作と言えるだろうか。これは痛い。

あらすじ

停電による緊急停車で帰宅の遅れたハワード・ウェイクフィールドブライアン・クランストン)。歩いて郊外の自宅に辿り着き、庭で見つけたアライグマを追いかけてガレージの二階に上がると、自宅ダイニングを覗ける窓を発見する。「喧嘩中の妻と顔を合わせたくないな……」とハワード。丁度いい椅子もあったので座り込むと、そのまま朝になってしまう。心配する妻ダイアナ(ジェニファー・ガーナー)をよそに、なぜか彼はガレージでの失踪生活を開始する。

感想

「今の生活を全て捨て去りたい」&「突然自分が失踪した時の家族や知人の反応を見てみたい」という歪んだ願望を実現した一作である。この状況設定は秀逸である(特に同様の願望が浮かんだことのある人にとっては)。当然「自分がいなくなって困るだろうな」とハワードは考えるが、妻が狼狽するのは失踪直後だけ。徐々に夫のいない生活にも慣れていき、彼は完全に“いない者”へと。自分がいない方が家族は幸せそうですらある。

果たして本作を観た世のおっさんたちが自分の存在価値の低さを嘆いたり心配したりする前にすべきは、周囲との関係性の改善なのか。それともその事実を受け入れることなのか。「自分が観察している家族の台詞を妄想して遊ぶ」という行動に象徴されるようなハワードのエゴを見ると前者のような気もするが、結局のところ存在価値とは関係なく一人欠けても世界は回り続けるのかもしれない。そうでなくては家族の不慮の死からも立ち直れないだろう。慣れるのに必要な時間に差異があるだけのような気もする。

髪とヒゲが伸び放題のホームレス化していくハワードの姿は愉快。富裕層の割には残飯漁りにも最初から抵抗がなく、他のホームレスや廃品回収業のロシア人と縄張り争いを繰り広げるシーンがハイライト。

ラストをあそこでぶった切るのは卑怯ではないか。本作がハワードの物語であったとしても、やはり家族の反応は気になって仕方がない。また、家族の反応に対するハワードの反応まで分からないと、彼の物語も完結したとは言えないだろう。もっとも彼にハッピーエンドが待っているとは思えない。彼に帰宅を決心させたのが風邪であるせよ妻の新恋人であるにせよ、彼が改心したわけではなく、自己中心的である事実は変わっていないのだから。妻は「今更なんで……」だろう。娘たち(エラリー・スプレイベリー、ヴィクトリア・ブルーノ)とは失踪前から十分な関係を築けていないので、いてもいなくても変わらないかもしれない。

ウェイクフィールド家にある保存食の量がゾンビ・アポカリプスにでも備えているのかという量だった。あれがアメリカでは標準なのか。日本人よりもゾンビへの、いや、災害への意識が高いのか。単に家が大きいという事情もあるだろうが、農民が圧倒的多数だった日本に生鮮食品を食べる文化が強く根付いているのかもしれない。

『アイ'ム ホーム 覗く男』という邦題もあり、こちらの方が別作品と被らないので分かりやすいが、三十郎氏の見たGyao!Amazonでも『シークレット・ルーム』の邦題で配信されている。

配信版とDVDでハワードの表情が異なるのが面白い。結末まで観ると前者の印象だが、映画の大半は後者の印象に近い。

シークレット・ルーム(字幕版)

シークレット・ルーム(字幕版)

  • 発売日: 2019/07/01
  • メディア: Prime Video
 
シークレット・ルーム [DVD]

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