オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『人生はシネマティック!』

Their Finest, 116min

監督:ロネ・シェルフィグ 出演:ジェマ・アータートンビル・ナイ

★★★

概要

戦時下のイギリスでダンケルクを題材にしたプロパガンダ映画を製作する話。

短評

戦時下のイギリスを舞台とした、映画を作る映画である。全体としてコミカルなタッチでありながらも、唐突に訪れる死の描写が戦争を感じさせ、彼らの仕事に意味を、そして終盤の上映シーンに感動を与えている。映画全体としては、映画の持つ力と女性の社会進出が素晴らしいバランス感覚で描かれていると思うのだが、後述の一点についてだけ惜しいところがあった。

あらすじ

1940年、ロンドン。カトリン(ジェマ・アータートン)は、コピーライターの秘書として働いていたが、ライターの男が皆徴兵されて彼女の描いた漫画が、脚本家トム・バックリー(サム・クラフリン)の目に留まったことから、情報省映画局に職を得る。彼女が取り組むのは、国威発揚のためのプロパガンダ映画。双子の姉妹がダンケルクから兵士を連れて帰ったという“実話”を、老人役を演じたくない老俳優(ビル・ナイ)や軍部からの細かなクレームを乗り越えて映画化する。

感想

プロパガンダ映画」という言葉に良い印象を持つ人は少ないのではないかと思うが、本作に登場する苦境を乗り越える助けとなるために必死で頑張る人たちの姿は、胸を打つものであった。「プロパガンダ」という言葉の悪印象が独り歩きしがちではあるが、三十郎氏だって映画から元気や勇気をもらったりすることがあるではないか。現代のハリウッド映画だって国際情勢に疎い者にとっては多分にプロパガンダ的で、認識を大いに左右されている。本作におけるプロパガンダは、劇中劇に描かれている内容に観客が自分を重ねられるという点で非常に優れている。

これはメタレベルでも同じことをする狙いがあったのだろう。本作のフェミニズム映画としての性格は言うまでもなく、劇中で語られる死の認識についても現実─映画と映画─劇中劇とで同じ構造になっている。映画についての映画らしい、映画というメディアを上手く活かした一作である。

ビル・ナイ演じる偏屈老俳優ヒリアードの変遷ぶりが愉快だった。自分に来たオファーがヒーロー役ではなく酔っ払い親父役であることに憤るも、新エージェントに「あなたは36才じゃんくて63才なのよ」と一喝される。撮影現場ではカトリンの巧みな話術に丸め込まれながらも、なんとか自分の出番を増やそうと奮闘する。そんな面白おじさん一辺倒なのかと思いきや、映画終盤に彼がカトリンに掛ける言葉は素敵なことこの上ない。歌も上手かったし、いいキャラであった。

カトリンとトムの関係は、劇中劇におけるローズ(ステファニー・ハイアム)とブラニガン(ジェイク・レイシー)の関係に重ねてほしかったし、そうなるものだと思っていたので残念だった。「抑えた行動が英雄的になる」というやつである。それを思いつく場面が重要なシーンとして終盤にも登場するというのに。彼らがハリウッドの配給会社から要求されたような展開を用意しなくても、喪失という要素や、その後の感情の機微は十分に描けただろう。それなのに、「全く男って生き物は……」という安直なフェミニズム的主張のためにスポイルしてしまうのはもったいない。そちらについては、カトリンの隣に座り号泣する観客の「これは私たちの映画ね」が何よりも雄弁に物語っている。

ちなみに、エリスの浮気相手はこの方(ナターリア・リュミナ)。これは……しゃーない。

人生はシネマティック!(字幕版)

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  • 発売日: 2018/04/01
  • メディア: Prime Video
 
Their Finest Hour and a Half: Now a major film starring Gemma Arterton and Bill Nighy

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  • 作者:Lissa Evans
  • 出版社/メーカー: Black Swan
  • 発売日: 2010/01/01
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