オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ロスト・イン・ラ・マンチャ』

Lost in La Mancha, 89min

監督:キース・フルトン、ルイス・ぺぺ 出演:テリー・ギリアムジョニー・デップ

★★★

概要

『The Man Who Killed Don Quixote(ドンキホーテを殺した男)』制作中断の顛末。

短評

完璧だったはずの計画が狂うこともあるし、ダメダメな計画が上手くいくこともある。『ドンキホーテを殺した男』は、ダメそうだけど魅力的な計画を“とりあえず見切り発車した”が、勢いでなんとかならなかった映画なのである。

あらすじ

『バロン』での制作トラブルによりハリウッドで資金を集められなくなったテリー・ギリアムが、欧州資本のみで『ドン・キホーテ』の映画化を目指す(という描写だったが、『バロン』の後、本作より前に『12モンキーズ』等がある)。欧州最大規模でもハリウッド程に潤沢とは言えない予算事情、杜撰な事前準備、襲いかかるトラブル。そして映画の制作は中止となった。

感想

セットを組む予定だったスタジオが音が反響しすぎて使い物にならなかったり、ロケ地の上空をF-16が飛び交っているのは、明らかに事前の調査不足だろう。人災である。一方で、ロケ中の激しい雷雨やドン・キホーテ役のジャン・ロシュフォール椎間板ヘルニアに見舞われたのは不運な天災と言えるだろうか。しかし、雷雨についても事前に想定した上でプランBを用意しておくべきでなのであって、ある意味で“約束された失敗”の姿がそこにはある。

これらのトラブルがとにかく立て続けに起こる。これは悲劇であると同時に喜劇である。スタジオでは音の反響に文句を言っていたギリアムが、ロケ撮影が始めると「音なんて後で録り直しすればいい」と開き直って撮影を強行する姿は笑える。それでも雷雨には勝てず撮影が中断され、ロケ地が川と化す。流される機材。これは笑うしかない。「地面が乾くのか。色が変わってしまってこれまでの撮影分とどう整合性を取るのか」と議論するギリアムたちの上空をF-16が飛び続けていて笑わせてくれる。

こうして後から見ると破綻に繋がる要素ばかりが揃っているように感じられて「ダメじゃん」の一言で片付けたくなってしまうが、本作は映画の製作がいかに困難なのかを教えてくれる。観客が「つまらない」の一言で切って捨ててしまうような映画でさえ想像を絶する苦労の賜物なのである。「もっと映画制作者たちに感謝しよう」と思いつつも、「そんな苦労は最初からしない方が本人も観客も幸せになれた映画もある」といくつかの映画とは呼びたくない映画を思い浮かべる三十郎氏であった。

60人の出資者たちが撮影現場の見学ツアーに訪れていた。不安そうな楽しそうな微妙な表情であった。きっと彼らは映画製作のことなんて何も知らない投資家なのである。三十郎氏にも出資する資金があればスコセッシ映画に一口乗って撮影を見学したい。

「概要」欄に「制作断念」ではなく「制作中断」と書いた。ギリアムは制作中止から半年後に再映画化を決意したと本作は締め括られており、日本でも遂に1月24日から『テリー・ギリアムドン・キホーテ』が公開中である。諦めなければ叶うのである。どのような仕上がりを見せたのか大変に気になるところである。一方で、三十郎氏は完成しなかった作品というものにも“見果てぬ夢”的なロマンを感じるので(だから『ホドロフスキーのDUNE』も好き)、嬉しいと同時に少し寂しくもある。