オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『アイ・フィール・プリティ! 人生最高のハプニング』

I Feel Pretty, 109min

監督:アビー・コーン、マーク・シルヴァースタイン 出演:エイミー・シューマー、ミシェル・ウィリアムズ

★★★

概要

頭を打ったデブス女が自分を美人だと勘違いする話。

短評

勘違いして調子に乗りまくるデブスと周囲の反応のギャップは笑えるのだが(特にナンパされたイーサンが怖がるところが良い)、一通り笑わせてもらった後の展開は余りに工夫に欠けていた。序盤は楽しいが、中盤以降は同じネタの繰り返しで退屈である。自己肯定の話に決着するのは観なくても分かっているのだが、話の畳み方が驚く程に雑である。

あらすじ

中華街の地下にある職場で化粧品の通販部門を担当しているレネー(エイミー・シューマー)。ジムのエアロバイクを壊してしまうほどの重量の持ち主である彼女が転倒して頭を打ち、目を覚ますと「腕と脚が細い!」「腹筋がカチカチ!」「顔も超ゴージャス!」に変身している!……と彼女だけが思い込む。

感想

レネー(醜)にとってレネー(美)がどう見えているのかが観客には分からない。単純な予算的都合なのか、それともデブを痩せさせるのは技術的に不可能なのか。ともかく観客が見られるレネーは一貫して太っているし、不細工である。第三者視点の映画ではないので、彼女に自分がどう見えているのかを見せないと、彼女をウキウキを理解できないし、感情移入という点では非常に厳しい。彼女の滑稽さを笑う映画ではあるのだが、そこはもう少しギャップを作ってもよかったと思う。

パッケージにも写っているピンクのミニスカ・スーツは最高にキツい。肥満体型の男がピチピチのズボンに下半身をねじ込んで尻と股間モッコリさせ、毛むくじゃらの胸元を大きく開いているくらいキツい。そんな彼女が「私ったら美人だから~」と周囲に一方的に絡みまくる。クリーニング屋で出会ったイーサンに順番待ちの番号を聞かれると、電話番号を教えてほしいのだと勘違いする。レネー視点で考えると恥ずかしくて見ていられないし、イーサン視点だと完全にホラーである。「興味のない男性に言い寄られるのが苦痛」という主張を理解できる。女→男であれだけ怖いなら、男→女ならもっと怖いか。

レネーがジムで出会うパーフェクト美女のマロリー(エミリー・ラタコウスキー)も劣等感を抱えているというのは面白かった。三十郎氏のような僻み屋はつい忘れてしまいがちな視点である。我々不細工たちは「お前は男前だからいいよな」「※ただしイメケンに限る」などと不平不満を漏らしがちである。世の美男美女が自分よりも楽をしているように考えてしまうが、エミリー・ラタコウスキーがあの体型を維持するのだって相当な努力が必要だろう。それでも彼らの人生は間違いなく三十郎氏のものよりも楽しいと思う。彼らには楽に幸せでいてもらわなければ自分の不幸を肯定できない。

自分を美人だと思い込んでいる時のレネーが容姿差別している描写はちゃんと回収してほしかった。彼女が「ありのままの自分」を受け容れるのは自由だが、自己本位でしかない身勝手さまで肯定してよいのか。外見について自己肯定する割に中華街で働くのはダサいという価値観を否定しない辺りも、本作の雑さを感じる部分である。

等身大の自分を肯定するという戦略は、広告事業においてどの程度有効なのだろう。本作のラストのように「あなたはあなたのままでいいのよ!」と美容業界に言われたとして、消費者はその化粧品を欲しがるものなのだろうか。三十郎氏は男なので化粧品については分からないが、「この商品を使ってもあなたはあなたのままです」と言われるよりも「この商品を使えばブラッド・ピットのようになれます」という嘘に惹かれる。どうせ自分は自分でしかないと理解した上での気休めなら、「これで俺もブラッド・ピットだぜ!」と虚しい自己暗示をかける方が楽しい。ジムの広告写真に肥満体型と虚弱体質の人しか写ってなかったら嫌だろう。レネーだって内心では「このままではよくない」と理解しているから最後までジムに通っているのに。