オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ザ・レポート』

The Torture Report, 119min

監督:スコット・Z・バーンズ 出演:アダム・ドライヴァーアネット・ベニング

★★★★

概要

9.11後にCIAが行った拷問を調査する話。

短評

日本未公開のAmazonオリジナル作品である。先日観た『イントゥ・ザ・スカイ』もAmazonオリジナルだったが、定額配信サービスはどこもオリジナル作品の製作に躍起である。利用者からすれば質の高い作品が増えるのは大変にありがたい。本作の特徴は、主人公が猪突猛進、正義のジャーナリストではなく、議会職員という様々な制約を受ける立場にあるという点である。調査だけではなく公表についてのゴタゴタを描くことで、問題を巡る政治的な重層性が表現されたドラマチックかつスリリングな映画になっていた。

あらすじ

合衆国上院のスタッフとして働くダン・ジョーンズ(アダム・ドライヴァー)。彼は、9.11以後にCIAが行った勾留及び尋問に関するプログラム(EIT)の調査を担当することになる。そこで明らかになるのは、CIAによって拷問が行われていたこと、効果が確認されないまま拷問が続けられていたこと、そしてCIAがその事実を隠蔽したことである。

感想

終盤で語られるファインスタイン議員(アネット・ベニング)の言葉を借りれば、「不愉快な事実と向き合うことにより、“繰り返さない”と誓う」ための映画である。

CIAの組織的な面子を守るという面が強調されてはいるものの、彼らの出発点が「国民の生命を守る」という動機であったことまでは否定できない。問題は、その手段が間違っていたことと、その是非の検討を妨害したことである。藁にもすがる思いで飛びついたのが詐欺師的な科学者で、その後の失敗はドミノ倒しである。

一言でまとめるならば「官僚機構の暴走」ということになるのだろう。従って、官僚を指揮する立場にある政府や政府を監視する立場にある議会は、「官僚の暴走を防ぐ」という点について利害を共有できてもおかしくない。しかし、そうはいかないのが政治の難しいところである。CIAとしては事実を表に出したくない。共和党としてはブッシュ政権時代の過ちを責められたくない。更にオバマ政権としても共和党と対立することで他の法案を潰されたくない。ダンは孤立無援に近い。「民主主義は厄介(Democracy is messy)」なのである。

しかしながら、こちらは政治の難しくも面白いところで、アメリカでは議員個人の持つ裁量が大きい。大統領がノーと言ってもイエスなものはイエスなのである。この辺りは個人の再選誘因等で説明されるのだが、少なくとも本作内での行動は信念に基づく正義と受け取ってもよいだろう。そんな政治家にもいてもらわなくては困る。

官僚機構の扱いは難しい。近年の日本では政権のスキャンダルに官僚が忖度する形で暴走しているように報道されている。しかし、本当に官僚が暴走しているだけなら、それは与野党双方にとって正さねばならない状態なはずなのである(本作でブッシュもオバマもCIAに嘘をつかれている構図に近い)。それでも官僚が責任を取らずに済まされてしまうのは、官僚の失敗=政権の失敗とみなされ、与党が選挙で不利になってしまうために認めづらいという理由がありそうな気がする。議院内閣制と、小選挙区導入による党の集権化の悪いところが重なってしまっている印象である。三十郎氏の雑な考察の内容はともかく、CIAによる文書の塗りつぶしを見れば、どうしても日本を思い出さずにはいられない。文書管理は民主主義の根幹である。

我々映画ファンが喜んで観ていた『ゼロ・ダーク・サーティ』の裏に、それを苦々しい思いで見つめるダンのような男が存在するというのが印象的だった。序盤は静かな演技に徹していたドライヴァーだが、徐々に語気を強め、早口に、感情的になってくる(内容も専門的なので字幕に追いつくのに必死である)。「こんなにも明らかなのに!」という苛立ちが痛いほどに伝わってきた。彼とは対象的に悠々自適な自称心理学者のなんと腹立たしいことか。CIAももう少し調べろよ。

HTML表記で文字を黒に塗りつぶす場合は、<span style="background-color: #000000;"></span>で、<>と<>の間に文字を入力するとよいらしい。#000000はカラーコード。もっともこの方法は背景と文字の黒色を同化させているだけある。文字選択で内容が読めてしまうのでブラウザ上ではのり弁効果が薄い。これを印刷すれば立派なのり弁文書が完成するのか。

本作や『ボーダーライン』のような映画を観ていると、CIAは何でもありなのだと思ってしまう。「ウクライナ機の墜落の裏にもCIAが……」と内心考えてしまったのは、流石に映画に毒され過ぎていると反省した。

ザ・レポート (字幕版)

ザ・レポート (字幕版)

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