オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『死に山 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相』ドニー・アイカー

Dead Mountain: The Untold True Story of the Dyatlov Pass Incident/Donnie Eichar

概要

ソ連で九人の登山チームが怪死した事件の真相解明にアメリカ人が挑む話。

感想

ディアトロフ峠事件については、『ディアトロフ・インシデント』という映画を観たことがあったので知っていた。事件の謎に挑むべくディアトロフ峠へ向かった学生たちが、まさに事件と同じように死ぬというモキュメンタリー形式のホラー映画である。そこそこ面白かったように記憶している。

映画の方はオカルト的な展開なのだが、本書はオカルトを含む通説を、公開された資料の検討や実地見聞によって棄却した上で、著者独自の結論に達している。

ディアトロフ峠事件における主な謎──何故トレッカーたちは靴を履かず、服も着ないでテントを飛び出したのか(映画ではテント内で一戦交えている途中のカップルが服を着ずに飛び出していた)、何故舌や身体を損傷した遺体があったのか、何故高濃度の放射線が衣服から検出されたのか──について、超自然的または陰謀論的でない説明が付与されており、それらは十分に説得力を持っているように思う。(放射線についてはもう少し強い根拠が欲しい。事件発生までは全員が行動を共にしていたのなら、全員の衣服から検出されるのでは?)

通説であったとされる雪崩説は、実際に現地に出向いて確認した傾斜角度を基に否定している。また、エイリアン的なオカルトはともかく、ソ連政府が隠蔽したという魅力的な陰謀論についても、他の情報公開の事例を基に納得のいく理由で否定されている。

謎に対する説明や通説を否定する理由には説得力がありながらも、著者の結論の裏付けの部分は少し弱いと感じた。著者の結論は“超低周波音”なのだが、そこに思い至る経緯が唐突である。現場の写真を専門家に見せて「これは超低周波音が発生する条件がバッチリ揃っている」とお墨付きを得たのはよいが、どうせならもう一度現地へ飛んで超低周波音の発生を観測できれば強固な裏付けが得られたのに。本書における結論は、あくまで仮説のままである。

本書は①著者パート②登山チームパート③捜索&捜査パートの三つから成る構成で、最後まで飽きることなく読めた。ノンフィクションではあるが物語的な面白さがあり、特に捜査において「未知の不可抗力」とされた事件の原因が、当時の人々にとっては文字通りの「未知の不可抗力」であったという展開は面白い。もっともそこから逆算して著者が原因を求めたという気がしなくもないのだが、陰謀への加担を疑われたり、未解決という事実により無能ぶりを責められがちな捜査官へに対しても「できるだけのことはやった」という敬意が感じられる内容だった。

ディアトロフ・インシデント (字幕版)

ディアトロフ・インシデント (字幕版)

  • 発売日: 2014/01/01
  • メディア: Prime Video