オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ボーダーライン』

Sicario, 121min

監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ 出演:エミリー・ブラントベニチオ・デル・トロ

★★★★

概要

米墨麻薬戦争の超法規的解決。

短評

緊迫感が限界突破している映画。特にギレルモを連れて国境越えするシーンが凄まじく、観ているだけで呼吸が苦しくなるレベルである。これは緊迫感が売りのヴィルヌーブ作品の中でも屈指である。つまり、映画史の中でも屈指の緊迫感である。そして、観終わった時にはどっと疲れる。メキシコ怖い。

あらすじ

誘拐事件を担当していたFBIのケイト・メイサー(エミリー・ブラント)が、国防総省のマット・グレイヴァー(ジョシュ・ブローリン)率いる麻薬捜査チームにスカウトされる。彼女は麻薬関連の容疑者宅の捜査中に同僚を亡くしたばかりであり、事件の黒幕の逮捕に協力したいとチームに加わる。

感想

最初から緊張感が異常値である。アリゾナ州の乾いた住宅地に特殊部隊がヌッと出現したかと思えば突入が始まり、ケイトが撃たれかけてドキリとする。着弾した壁からは顔にビニール袋を被せた死体が大量に出てきて、グロいけど一息ついたかと思ったところで、ドカン!である。この後は心が休まる暇がない。二時間ずっと緊張状態と言っても過言ではない。弛緩がなければ緊張が引き立たないのではないかと思うが、休んでいるはずの時でさえも常に助走状態である。

この心休まらない展開は、専門外である麻薬戦争の現場に放り込まれた主人公ケイトの心情を反映していると言えるだろう。彼女は誘拐事件の修羅場をくぐってきた経験を買われてスカウトされたはずなのに、彼女たちの“遥か上”で意思決定される麻薬戦争の捜査は常に彼女の斜め上をいく。その日の出来事を自分の中で消化する余裕もなく、次の事件が起こる。その上、(ダサいブラで)久し振りに男と交わろうかと思えばカルテルの協力者だなんて(輪ゴムの使い方が上手い)、自分も周りも何も信じられないだろう。気の毒である。

更に気の毒なことに、実は彼女は主人公ですらない。都合の良い道具として利用されただけである。自分が“狼”ではないと突き付けられた時の虚無感たるや(対する狼たちの強者感たるや)。彼女の正義感や常識ではどうしようもない麻薬戦争は、きっと現実に繰り広げられている光景なのだろう。街中に吊り下げられた死体のようにショッキングな描写も現実に起きている出来事なのである。あれが日常になっている人たち心境というものは、どうにも想像がつかない。

アレハンドロ(ベニチオ・デル・トロ)とジョン・ウィックだと、どちらの方が強いだろう。“殺し屋”としてのスキルの多様さはジョンに軍配が上がりそうだが、“暗殺者”としての忍び寄る能力はアレハンドロだろう。彼は“復讐”という感情に基づいて行動しているのに、感情を一切感じさせない無表情ぶりが恐ろしい。なにより目付きが完全に人殺しのそれである。彼の“殺し”が一瞬で完了するのと同様に、映画全体でも銃撃戦に突入しても瞬時に制圧している。アクションシーンの短さが、迫力勝負ではなく緊迫感勝負するのに一役買っている。“その瞬間”が強調されているのである。

不協和音多めの不穏な音楽はヨハン・ヨハンソン。乾燥した不穏な映像はロジャー・ディーキンス。この二人にドゥニ・ヴィルヌーヴ監督を加えた緊迫感の三位一体が二度と実現しえないというのは実に寂しい。

「海外だとタトゥーは一般的なファッション」みたいな主張をよく見かけるが、アレハンドロが不法入国者に対して手のタトゥーを確認しているシーンがある。国境越えのシーンで射殺される男は顔までタトゥーだらけで明らかにギャングだし、日本の刺青と同様にマフィアやギャングの印となっているケースもあるらしい。“海外”も様々である。て言うか、やっぱり見た目が怖い。

ボーダーライン(字幕版)

ボーダーライン(字幕版)

  • 発売日: 2016/08/09
  • メディア: Prime Video