オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『イントゥ・ザ・スカイ ~気球で未来を変えたふたり~』

The Aeronauts, 100min

監督:トム・ハーパー 出演:フェリシティ・ジョーンズエディ・レッドメイン

★★★

概要

気球で空高く飛ぶ話。

短評

日本では来年1月に劇場公開予定の映画が、一足早くAmazonで配信開始である。配信開始に先駆けて劇場公開する逆の例はたまに見かけるが、こんなこともあるのか。驚きである。本作は、言ってしまえば高く飛んで帰ってくるだけの話なのだが、そこには驚くほどのドラマが詰まっており、展開は非常にスリリングである。そして、映画が終わった時になんと晴れやかな気持ちになることか。『スカイウォーカーの夜明け』でむしゃくしゃしていたところを救われた気分である。三十郎氏は“行って帰るだけの話”が好きなのかもしれない。

あらすじ

1862年のロンドンに自称気象学者のジェームズ・グレーシャー(エディ・レッドメイン)という科学者がいた。どうして“自称”なのかと言えば、当時は気象学という分野が確立されておらず、「天気の予測?占いかよ」「よっ!お天気探偵!」とバカにされていたのである。それでも彼は諦めない。空高く飛んでデータを集めれば、必ずや気象予測に役立つ知識が得られるはず。彼は、アメリア・レン(フェリシティ・ジョーンズ)という気球操縦士の協力を得て、最高高度記録23,000フィート(=7,010メートル)を目指すのだった。

感想

「今日の天候予測だと嵐になるはずがない」からの嵐に突入で、いきなり不安な立ち上がりである。ジェームズは転倒して頭から流血するし、アメリアは籠の外に吹き飛ばされて半分死にかける。ほとんどずっと籠の中にいるだけなのに、とてもスリリングで変化に富んだ映画なのである。なんとか嵐を抜けると美しい景色が待っていて、上空を移動する蝶の群れや虹が観客を楽しませてくれる。壮観である。

目標の23,000フィート(日本語字幕はメートル表記。感覚的に分かりやすいが、劇中の台詞や表示とズレているのが微妙なところもあり、どちらがよいのか分からない。)に達しても「まだだ、まだ行けるぞ!」とプッシュするジェームズ。彼は気球や上空の世界を体験したことがないくせに、科学者の探究心というものは留まるところを知らない。探究心こそが人類の進歩の源かもしれないが、あなたが酸欠でぶっ倒れている間にアメリアは大変だったんだぞ。少し反省しろ。「低気圧くらいで……」からの鼻血ブーも情けない。しかし、彼の無謀さとアメリアの勇気により、大気が層になっているという事実が確認され、人類は一歩先へと進んだのである。

アメリアは夫を気球で亡くしている。その過去が描かれた時点で同じ展開が来ることは予想されたのだが、「君が死ぬなら僕も死ぬぞ!」は激アツだった。アメリアが人を死なせたくないという心情を十分に描写した上で、彼女には絶対生き残ってほしいと願わせる抜群のシチュエーションである。「二人とも、絶対に助かってくれ!」と手に汗握ってハラハラした。

エンドロールで流れる曲はベタな曲調なのだが、感動的な雰囲気そのままに浸れる感じで気に入った。Sigridというノルウェーの歌手らしい。タイトルは『Home to You』。ざっと聞いてみた感じだと、他の曲はそれほどでもなかった。おそらくミキシングがシンプルな方が三十郎氏好みなのだと思う。ただ、顔は可愛い。

本作は実話がベースとなっているが、アメリアは架空のキャラクターであり、実際にはヘンリー・コックスウェルという男性飛行士が同行したそうである。上空で指先が凍傷を起こしながらも手首と肘をフックに使って気球をよじ登っていくアメリアの勇姿が最高に燃えただけに少し残念である。ドラマとしてはこの二人の背景を交えた物語がとても良かったのだが、実話としてはコックスウェルの偉業も称えられるべきであるような気がして、少し複雑な気持ちである。せっかく清々しい気持ちで映画を観終えたので、知りたくない事実だった。それでも映画の良さそのものは毀損されないだろう。