オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『7月22日』

22 July, 144min

監督:ポール・グリーングラス 出演:アンデルシュ・ダニエルセン・リー、ジョナス・ストランド・グラヴリ

★★★

概要

2011年7月22日に起きたノルウェー連続テロ事件の話。

短評

ノルウェー連続テロ事件とその余波を、被害者や加害者などの複数の立場から描いたNetflixオリジナル映画である。襲撃シーンには痺れる緊張感と恐怖があり、その後の展開も色々と考えさせられる。本作はイギリス人監督のポール・グリーングラスが撮った、ノルウェー人が英語を話すタイプの映画であるため、やはり本国で製作された『ウトヤ島、7月22日』も観てみたい。

あらすじ

政府庁舎を爆破し、次に労働党青年部がサマーキャンプに興じるウトヤ島を襲撃し、単独犯としては史上最大規模となる77人の命が奪われたノルウェー連続テロ事件。犯人はアンネシュ・ベーリング・ブレイビク。狂信的右翼である。

感想

戦慄の襲撃を終え、駆けつけた逮捕されるブレイビクの堂々たる姿と言ったらない。余裕しゃくしゃくである。彼は、投降すれば射殺されないことも、ノルウェーに死刑制度がないことも理解しているのだろう。逮捕後の取調べもコーラとピザを食べながらの緩いものである。有罪確定後も『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』で紹介されていた超快適な刑務所での生活である(本作の最後に「独房に監禁されている」とあるが、それすらも人権侵害の訴えがあり処遇改善されたのだとか)。

「この人非人に対しては死をもって報いるべし」というのが人情というものであろう。しかし、彼の扱いは非常に難しい。彼を悪い意味での特別扱いすれば、それは法治主義を捨て去る行為であり、敵と同じ土俵に立つことになる。自らの主義主張や正当性を放棄する行為である。被害者や政府、そして特に彼を弁護するはめになった弁護士は葛藤を抱える。

更に扱いが難しいのは、彼の思想だろう。「排外主義者は皆死すべし」と話を単純化してしまったのでは、かつて「共産主義者は皆死すべし」と弾圧してきた社会と全く同じである。まるで成長がない上に、「移民は皆死すべし」の排外主義者たちと同じである。これは現在進行系の答えが出ていない問題である。本作では襲撃を受けながら生き残ったビリヤルが力強く立ち上がる姿をもって、団結することや決して屈しないことの重要性を描いている。彼の姿には感服するが、反面、根本的な解決策はないように思えてモヤッとする。他者に寛容であろうとする者は、寛容でない者に対してどの程度寛容でないことが許されるのだろうか。

しかしながら、ブレイビクが裁判で自分の思想を堂々と主張し共感を得られると思っていたのであれば、それが果たされなかった“今回”はノルウェー社会の勝利ということになる。そうやって戦い続けるしかないというのも、どうにもなぁ……。

被害者や弁護士の心情が丁寧に描かれている一方で、加害者についてはかなり単純化されていたように思う。ビリヤルは「こいつは孤独な人間だ」とブレイビクを断じているが、一般的な市民として普通に生活していたという記述も見かける。孤独を拗らせた奴が暴走しただけという個人に帰責する決め付けは気が楽だろうが、社会的な背景から目を逸らしてそこだけに焦点を当てると、次のブレイビクを見過ごしかねない。裁判では裏切られたが、彼を煽った予備軍がいたのである。また、ブレイビクに“屈さなかった社会”が、ブレイビクを“孤独に追い込んだ社会”であるという点にも留意しておくべきだろう。

なお、ブレイビクは日本を多文化主義に否定的な国として高く評価しているそうである。移民が少ないのに排外主義が蔓延っている日本でも、いずれ似たような問題に直面する時が来るのだろう。その時、暴力に走るのはどちらの側だろうか。加害者にも被害者にもなりたくないならば、幸いにも他人事でいられる内によく考えておくべきである。もっとも考えてもどうにもならない場合、考えること自体を拒否するのが人間というものである。

ノルウェー連続テロ事件

ノルウェー連続テロ事件

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