オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『アリー/スター誕生』

A Star is Born, 135min

監督:ブラッドリー・クーパー 出演:レディー・ガガブラッドリー・クーパー

他:アカデミー賞歌曲賞『Shallow』

★★★

 

概要

アル中のロック・スターが場末のバーで女性歌手を見出す話。

短評

ブラッドリー・クーパーの歌も上手いし、レディー・ガガの演技も上手い。音楽のキャリアがどうなのかは知らないが、少なくとも映画界でのキャリアはマドンナ超えを果たしたのだろう。もっともこれはマドンナ側の問題が大きい。また、本作自体も「それほどか……?」という印象がある。

あらすじ

(歌っているのはカントリーだが)アル中かつヤク中の典型的なロック・スター、ジャック(ブラッドリー・クーパー)が、ライブ後に立ち寄った場末のバーで出会ったアリー(レディー・ガガ)の歌に感動し、彼女の才能を世に送り出す。

感想

「ステージに上ってくれ」と頼むジャックに対し、「イヤよ、無理よ」と戸惑うアリーだが、どう見ても“嫌よ嫌よも好きのうち”で、「かまととぶってんじゃねーぞ」感が強い。「無理」と言った割には簡単にステージに上り、堂々のパフォーマンスである(ジャックと共に歌う一曲はまだしも、彼女が締めの一曲を歌ったらジャックのファンは怒ると思う)。そこに葛藤や成長の要素はない。彼女のシンデレラ・ストーリーについては陳腐なもので、歌が上手い以外には全く面白いと思えなかった。

ロック・スターに見出され、プロデューサーがついてスターダムを駆け上がる新人歌手に対し、当のロック・スターは酒と薬に溺れて転落していく。終いには妻がグラミーの受賞スピーチをする舞台に上がって失禁する。王子様は問題児なのである。まあ、これもまたよくある話である。

この二つの“よくある話”が組み合わさることで浮かび上がってきたのは、“男性的であること”の喪失である。主役はやはり監督兼任のブラッドリー・クーパーなのである。三度目のリメイクらしいが、活躍する女性の裏で失われていく男性らしさというモチーフは現代的。ジャックが「これまでの生き方を変えよう」みたいな歌詞を歌っているように、旧態依然としたロック・スターの生き様は、本人を苦しめ、周囲にも迷惑をかける。ロック・スターの夫はポップ歌手の妻に敗れる。そこにいるのはクールなロック・スターの偶像ではなく、脆く弱い一人の男である……はずなのだが、死ぬところまで含めて格好よかったりするので、旧態依然とした三十郎氏はロック・スターが好きなのだろう。ブラッドリー・クーパーも自分を格好いい男としてしか描いていないと思う。

恋愛パートがあまりにも駆け足なので、「アリーはお前を愛し過ぎている」というレズの言葉をすぐに飲み込めなかった。この台詞で二人の関係がどういうものだったのかが繋がるのだが、かなり唐突に感じた。二人の音楽以外の私生活での関係はもっと丁寧に描いてもよかったのではないかと思う。アリーは髪をオレンジから茶色に戻していたが、レズを切ったのだろうか。それとも彼は悲劇を利用してのうのうと儲けているのだろうか。

ラストシーンは感動的なはずなのだが、自殺した夫の追悼公演に華やかなドレスを着た妻が現れて元気に歌っていたら、ちょっと精神的にタフ過ぎて引いてしまう。私生活の悲劇もステージの材料にしてしまうのがスターという存在なのだろうか。クーパーとガガもその辺りは心得ていたようで、自らの私生活を映画のプロモーションに利用していた。いかにもマスコミと女性ファンが喜びそうな話だと思ったが、三十郎氏は冷めた。映画の中でもそこまで熱烈な愛は描かれていなかったと思う。

これで第91回アカデミー賞の作品賞ノミネート作品は『バイス』と『ブラック・クランズマン』を除く六作品を観ることができた。全て観てもいないくせに偉そうなことを言うが、ここ三年ほどはどうも小粒な争いが続いているように思う。来年は久々に激しい賞レースになりそうな気がして楽しみなのだが、こういう時に限って鑑賞済みの好きな作品が獲らずにガッカリするものである。受賞作品が納得できる内容であればよいのだが。その典型は『グランド・ブダペスト・ホテル』に勝った『バードマン』で、三十郎氏の中では2010年代を代表する一作である。

アリー/ スター誕生(字幕版)

アリー/ スター誕生(字幕版)

  • 発売日: 2019/04/03
  • メディア: Prime Video