オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『将軍様、あなたのために映画を撮ります』

The Lovers & the Despot, 98min

監督:ロス・アダムス、ロバート・カンナン 出演:金正日

★★

概要

北朝鮮に拉致された韓国人映画監督と女優のドキュメンタリー。

短評

三十郎氏は面白そうな話に出会ったり思い付いたりすると、「これをスコセッシが映画化してくれたらなぁ……」と夢想することがある。この広い世の中には、それに近いことをを実現してしまった映画オタクがいる。北の先代将軍様金正日である。

あらすじ

偉大なる同志・金正日は考えていた「我が国の映画はどれも同じ内容ばかりでつまらん!韓国に負けているとはけしからん!そうだ、韓国で一番の映画監督を連れてくれば韓国に勝てるぞ!」。そこで拉致されたのが、シン・サンオクとその元妻で女優のチェ・ウニである。本作は彼らの拉致から脱北までの顛末を、関係者の肉声や映画の映像と共に辿っていくドキュメンタリーである。

感想

拉致されたシン監督は驚異的なペースで作品を量産していくのだが、意外にも内容への干渉は少ない。金正日は芸術のよき理解者であり、一人の映画ファンなのである。一見恐怖に満ちた独裁体制下での映画製作が、母国韓国時代よりも良い環境に恵まれているというのは皮肉なものである。それでもやはり怖いことに変わりはなかったようで、チェが映画祭のためにロシアや東欧の共産圏を訪れた時のことを「人々が自由だった」と振り返っているのは少し笑える。

金正日はどうしてそこまで映画に惹かれたのだろうか。三十郎氏が彼の境遇に生まれ育っていたら、映画よりも権謀術数や喜び組に夢中になっていたのではないかと思わなくもない。しかし、彼が選んだのは映画なのである。単にプロパガンダの道具としての優秀さを確信していただけなのか、それとも周囲に誰一人信じられる人間のいない状況から逃げ込めるのが映画の世界だけだったのか。彼の本心は何も分からないが、少しだけ親近感が湧いたのは事実である。

ガチなのかギャグなのか判然としない、絶妙に統制の取れた混沌と化している葬儀の光景は爆笑必至である。これを見る限り、金正日は本人も優秀な演出家である。あれは他の誰にも真似できないだろう。

将軍様、あなたのために映画を撮ります(字幕版)

将軍様、あなたのために映画を撮ります(字幕版)

  • 発売日: 2017/04/27
  • メディア: Prime Video