オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『パドルトン』

Paddleton, 89min

監督:アレックス・レーマン 出演:マーク・デュプラス、レイ・ロマーノ

★★★★

概要

癌で余命宣告されたおっさんが自宅で安楽死する話。

短評

主人公の二人はゲイのカップルに見えるけど(三十郎氏も途中まで勘違いしていたし、劇中でも勘違いされる)、同じアパートの上下の階に住む親友である。彼らはあくまで友人なので、身を焦がすような恋をするわけでもなければ、差別に苦しんだり立ち向かうわけでもない。片方の安楽死という大事件がありながら、おっさんたちの会話や行動をあくまで淡々と描くことで、ちょっと不思議な関係や状況における心の機微が浮かび上がってくる。パドルトンとは、おっさん二人が考案したテニスの壁打ちゲームの一種である

あらすじ

癌で余命宣告を受けたマイケル(マーク・デュプラス)。彼は親友のアンディ(レイ・ロマーノ。『アイリッシュマン』の弁護士役の人)に告げる「管に繋がれてまで生きたくないから安楽死しようと思う」(アメリカでは本人が希望すれば処方薬を買って自宅で安楽死できるようである。びっくり)。「奇跡は起こる」とか「考え直せ」と動揺するアンディだったが、マイケルの意思は変わらない。二人で遠くの薬局に薬を買いに行き(倫理上の理由で扱う薬局は少ない)、その瞬間が訪れる。

感想

マイケルとアンディは、パドルトンに興じ、お気に入りのカンフー映画『デスパンチ』(原題:The Punch of Death。VHSは見つからなかった)を観ながらピザを食べて、ジグソーパズルをし、寝る時間になると「おやすみ」と別れる生活を繰り返している。学生時代に恋人のいなかった三十郎氏が友人とひたすら繰り返していた不毛な生活のようで少し懐かしい。しかし、彼らは中年のおっさんである。この光景だけでも何故かシュールで可笑しく見える。このおっさんたちは“普通”から外れていて奇妙に見えるかもしれないが、当人たちにだけ分かる絆で結ばれている。それでいいと二人の関係を肯定できる映画である。

自分の死と向き合ったり、恋人や家族の死と向き合う物語は数多くある。本作のように、友人の死を看取るというシチュエーションは新鮮である。友人から「安楽死しようと思う」と告げられれば、当然混乱するし、止めたくなる。アンディもありきたりな言葉で説得を図ったり、子供用金庫を買って薬を自分の手元に置こうとしたりと(モーテルのロビーで取り合いする光景は滑稽)、子供じみた方法でマイケルを止めようとする。

しかし、彼らの深い付き合いが、最終的に相手の意思の尊重へと導く。薬を飲んだマイケルは「怖い」と怯える。金庫を渡す前のアンディであれば、「止めるか?救急車を呼ぶか?」と確認しただろう。しかし、そこでアンディのとった行動は、マイケルの手を握り、頭を撫でて寄り添うことだった。このシーンはかなり胸に来た。キッチンに薬を取りに行ったアンディが、戻る前に雑に涙を拭う姿も見ているので(自分が泣けばマイケルの覚悟を邪魔してしまうと理解しているのだろう)、言葉にできない葛藤が感じられる。

親友が死ぬのはそれだけで辛く、その上に目の前での安楽死など、簡単に受け入れられるものではないだろう。しかし、引き延ばしても親友が苦しむことが分かっているのなら、本人の意志を尊重するのが、遺される者の責任であり友情ある。マイケルはそのような理解者を得られて幸せだっただろう。かつて結婚していたと告白するマイケルの安住の地はアンディだったのだ。家族や恋人とは違う、「愛する」の形もあるのだと思った。

死についての話を真正面から描くと、「悲しみ」や「辛さ」の感情だけが先走って、他のことに何も思い至らなかったりするのだが、本作はコメディという体裁を採ることで、上手いバランス感になっていたと思う。二人でダチョウを眺めるシーンがシュールである。

アンディのハーフタイム・スピーチは格好いいので、どこかでパクりたい。

Kung Fu - The Punch of Death

Kung Fu - The Punch of Death

  • 出版社/メーカー: Tgg Direct
  • メディア: DVD