オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『風の向こうへ』

The Other Side of  the Wind, 122min

監督:オーソン・ウェルズ 出演:ジョン・ヒューストン、オヤ・コダール

★★

概要

老映画監督が再起を期した一作を撮る話。

短評

オーソン・ウェルズの未完となっていた遺作を、40年の時を経て復活、完成させた映画である。『ベルベット・バズソー』の世界であれば、関係者は皆怪死を遂げているだろう。どういう映画なのかは冒頭に説明文が流れるので、ここに引用しておく(読点と句点は三十郎氏による補足)。

2年間の追放の後、55才でオーソン・ウェルズはハリウッドに戻り、復帰映画「風の向こうへ」の制作を始めた。制作は1970年に開始され、1976年初頭まで断続的に続いた。編集は1980年代まで続く。複雑な法的、金銭的、政治的混乱に巻き込まれ、映画は完成されなかった。

ウェルズは1985年に死亡。100時間にも及ぶ映像、編集途中のポジフィルム、注釈付きの台本、メモや指示が残された。これは彼の構想を称え、完成させる試みである。

風の向こうへ』より

感想

映画は、ジョン・ヒューストン演じる映画監督ハナフォードの姿を捉えた現実世界のモキュメンタリーと、ハナフォードの制作した映画(劇中劇)が行き来する。この二つは『グランド・ブダペスト・ホテル』のようにアスペクト比を変えることで観客が混乱しないように工夫されているが、劇中劇の内容がへんてこであれば、モキュメンタリーは無駄に短いカットを繋いで見づらく、やはり混乱する。

三十郎氏は『黒い罠』以降の監督作品を全く観ていないので偉そうなことは言えないが、編集スタイルには違和感を覚える。「この編集は本当にウェルズが意図したものなのか?」「これでウェルズの作品と言えるのか?」と大いに疑問に感じるところであるが、撮影後に監督に意図に反して編集される映画は多いし、その結果として観客に受け入れられることもあるだろう。そういう意味では紛れもないウェルズの監督作品なのだが、「こんなゴチャゴチャした現代風の編集になるかなぁ……」という不満は残った。そして、監督の意向とは別の形で映画を完成させるのは、普段Netflixがやっていることの真逆である。

とは言え、三十郎氏が本作を面白いと感じていればこんな疑問は感じないのである。単純につまらないから、その理由を編集に求めただけである。本作の制作風景を反映させたかのような断片の継ぎ接ぎは、三十郎氏の興味を持続させてくれない。未完の映画をさせようとする劇中のプロットが、現実でも未完となってしまった皮肉な構図さえ、焦点が定まらないまま過ぎ去ってしまった。

ショットの中にはいかにもウェルズらしいバシッとキマったものもあり、特にガラスの反射を利用したショットが格好いい。他にも、全裸にロングコートの変態女がカーセックスしたり、トイレを歩く姿を見られているだけのシーンですらキマっているので、この辺りは流石ウェルズと褒めるべきだろう。ポルノ映画そのものなシーンを真剣に撮る辺りも大したものである。

 

*追記

オーソン・ウェルズが遺したもの』という本作の制作背景を描いたドキュメンタリーが、同じくNetflixで配信されている。本稿を書きつつの“ながら見”で観はじめてしまったのだが、この二つは明らかにセットである。どちらか一つだけ観てもダメなタイプである。ドキュメンタリーを先に観て本編を楽しむべきなのか(楽しめるのかは分からないが)、本編を先に観てドキュメンタリーで「なるほど」となるべきなのか。よく分からないが、三十郎氏の場合は両方を再視聴する必要がある。これは流石にキツい。「『市民ケーン』こそ歴代最高の映画!」という主張を理解できるくらいの映画の理解者になるようなことが万が一あれば再挑戦したい。

風の向こうへ

風の向こうへ

  • アーティスト:ミシェル・ルグラン
  • 出版社/メーカー: Rambling RECORDS / LALA LAND RECORDS
  • 発売日: 2019/03/01
  • メディア: CD