オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『マリッジ・ストーリー』

Marriage Story, 136min

監督:ノア・バームバック 出演:アダム・ドライヴァースカーレット・ヨハンソン

他:アカデミー賞助演女優賞ローラ・ダーン

★★★★

概要

ドロ沼離婚劇。

短評

ノア・バームバックがいつものように、いつも以上に、シニカルかつコミカルに、そして生々しく人間の営みを描いている。オスカー・レースでも注目の一作である。レイ・リオッタが『アイリッシュマン』に出てないと思ったら、こっちのライバル作品に出ていたのか。

あらすじ

夫チャーリー(アダム・ドライヴァー)と妻ニコール(スカーレット・ヨハンソン)。彼らが互いを褒め合うモノローグと共に映画が始まり、「この幸せな家庭のどこに離婚する要素が……」と思っていたら、それは離婚調停の第一段階だったというオチがついて、映画は本当のスタートを見せる。その先は、望んでいないはずなのに避けられない、つまり望まざるを得ない、ドロ沼の離婚劇である。

感想

本作が主にチャーリーの視点から描かれていること、ニコールが先に騙し討ちを開始したと感じられること、そして三十郎氏が男性であることの三つの理由から、チャーリーを応援するような気持ちで映画を観ていたのだが、忌々しきノラ(ローラ・ダーン)の独演と(彼女のことは決して好きになれないが、当を得ていると思う)、ニコールがエミー賞の監督部門にノミネートされる展開をもって、ようやくチャーリーの非を理解できた。お互い様である。『最後のジェダイ』では鼠の課したノルマを達成するためだけの、性別以外に何の個性もないフェミニスト役を演じたローラ・ダーンが、本作では憎らしくも真実を語る痛烈なフェミニストだった。

本作は演技の凄さが際立つ名シーンの連続である。ノラに「あなたの話を聞かせて」と言われたニコールが、堰を切ったように滔々と不満をぶちまけ出すシーン。キャリアや結婚生活、そしてチャーリー個人への不満と自身の犠牲を散々並べ、最後に「あと彼が浮気した」である。臨界点を越えた時に全ての不満が噴出し、そこに至るまで男は決して気付くことはない。世の常である。

圧巻なのは、避けたいと思っていたはずの裁判に突入し、「こんなはずじゃなかった」と話し合おうとした二人が壮絶な舌戦に突入するシーン。全てが噴出する。これは言葉にならない。実際に観てほしいとしか言い様がない。「意見もないくせに声を上げたがる」は強烈な一撃だった。

ドロ沼離婚劇に突入していく直接の原因が、ニコールが「夫婦間の調停で済ませよう」という“約束”を破棄し、ノラという“やり手”の弁護士を頼ったことにあるため、途中までは「この女弁護士さえ出てこなければ……」と思わなくもない。しかし、ノラがいなければ、ニコールは本音を押し殺したままチャーリーに譲歩することなっていたため(これはチャーリーに肩入れする男にとって、無意識にでも都合が良い)、やはり彼女の存在は必要なのである。

この離婚劇が何であったか。それは、二人が自分と相手について理解していなかったり無視していたこと、そして気付いていなかったことを確認するために必要な通過儀礼であったように思う。人は出来るだけ対立を避けようとするが、それでは互いに本音を隠したままの歪んだ関係が継続されてしまう。彼らが新しい関係を築こうとするならば、この対決が必要だったのだ。

近年の離婚率は日本、アメリカともに減少傾向にあるらしい。老弁護士が「死人の出ない死」と称する離婚裁判への嫌悪や、そもそも婚姻件数自体が減っているという事情があるのだろう。しかしながら、「離婚」という行為自体は、既にありふれていて特別なものではなくなっただろう。当たり前にありうるものとして認識されているのではないか。本作の登場人物もほとんどが離婚経験者である(多い人は4回)。そして、当然女性の社会進出もある。社会は変化している。結婚もそのままではいられない。

本作は、そのような時代における新しいの結婚像を提示してくれたように思う。出会い、入籍し、子を育て、離婚する。その先に続く人生や新たな関係までを含めて、“結婚”と認識するべきではないだろうか。思い通りにならない苛立ちや、何が本音なのか自分でも分からなくなるような本音をぶつけるもどかしさ。それらを乗り越えた先にある関係は、どこか爽やかで希望を感じられた。彼らはこのドロ沼離婚劇を通じて、新たに出会ったのだ。

チャーリーとニコールが互いを褒め合う手紙の内容に共通しているのは、二人とも“負けず嫌い(competitive)”という点である。他のバームバック作品では『イカとクジラ』の父親も強烈な負けず嫌いだった。『ヤング・アダルト・ニューヨーク』や『マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)』にも近い要素があったように記憶している。離婚と並ぶバームバックのモチーフなのだろう。それは向上心の源であり、争いの種である。

ところで気になるオスカー・レース。本作は『アイリッシュマン』と共にNetflix映画であるため、作品賞の受賞は厳しいか(Netflix許容派の票も割れるだろう)。注目は主演男優賞である。インパクト絶大な『ジョーカー』のホアキン・フェニックスが勝ち取るか、それとも繊細な心の動きを見事に演じきったアダム・ドライヴァーか。観客受けが良さそうなのは前者だが、果たして関係者たちはどういう評価をするのだろう。もっともこういう時に限って日本未公開作品からシレッと選ばれたりするものである。

オスカー・レースは予想している間が一番楽しい。結果が出れば、「おお、獲ったか~」か「あかんかったか~」のどちらかにしかならない。それに二人とも今回がダメでも次がある。その点、『バードマン』のマイケル・キートンには獲ってほしかったなぁ……。

Marriage Story (Original Music from the Netflix Film)

Marriage Story (Original Music from the Netflix Film)

  • 発売日: 2019/11/08
  • メディア: MP3 ダウンロード