オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ディザスター・アーティスト』

The Disaster Artist, 103min

監督:ジェームズ・フランコ 出演:ジェームズ・フランコデイヴ・フランコ

★★★★

概要

変人が変な映画を撮る話。

短評

ルディ・レイ・ムーア』の『ドールマイト』を超えるレベルで、「本家の映画は絶対つまらないだろう」と「どれくらい酷い映画なのか観てみたい」の二律背反した感情が沸き起こる伝記映画である。謎に包まれた変なおっさんが「脚本俺!製作俺!監督俺!主演俺!」で一本の映画を完成させてしまった。そしてそれは、本人の意図を超えたところで観客に受け入れられてしまった。これ半分『ジョーカー』だろ(トミーが嘲笑された時に「悪役は人を笑う」と言い放つ場面とも符合する)。

あらすじ

演技のクラスで出会ったグレッグ(デイヴ・フランコ)とトミー・ウィソー(ジェームズ・フランコ)。演技に対する恥ずかしさが抜けないグレッグは、自由に自分を表現するトミーに興味を持ち、声を掛ける。やがて意気投合した二人は俳優としての成功を目指してロサンゼルスへ向かう。しかし、スターへの道は厳しく、個性的過ぎるトミーは周囲から理解を得られない。「それなら自分で映画を撮ればいい」と制作を始めたのが、後に伝説的カルト映画となる『ザ・ルーム』である(Wikipediaの充実度が凄いが、日本でもそんなに有名なの?)。

感想

トミーは映画製作のド素人である。スタッフに「こいつ、映画観たことあるのか?」と疑われるレベルである。そんな彼が1998年に執筆に着手した脚本が2001年に完成し、2002年に撮影開始、大幅なスケジュール超過を経て、2003年、遂に映画が完成する。通常はレンタルで済ませる機材を購入したり(フィルムとデジタルの併用にはどういう意図があったのか)、ロケで済ませられる路地のシーンをセット撮影しようと、予算超過というものはない。そもそも予算という概念がない。トミーは金持ちなのである。なお、彼の金の出どころは最後まで不明のままである。気になる。

ドールマイト』の撮影には素人集団なりの創意工夫を感じられたが、『ザ・ルーム』はそれらを超えた“よく分からない何か”である。トミーは台詞を覚えられないし、カメラに自らの尻を見せつけて濡れ場を演じたがるし、何がしたいのかさっぱり分からない。それは自己表現に対する情熱なのか、単なるナルシシズムの発露なのか、それともグレッグへの愛なのか。とにかく常人の理解の遥か斜め上をいくことだけはよく分かる。ペットボトルを持たせると台詞を言えたことからも、恐らくは何らかの障害を抱えているのではないかと思うが、病名をつけて枠にはめられるような存在ではない。天才でも阿呆でもない。奇人である。

何故か大入りになっているプレミア上映では、出演者が「いつまで続くの?」と不安がる壊滅的な出来栄えながら(この気持はよく分かる)、途中から観客が笑い出す。最後には拳銃自殺のシーンで「Do it!Do it!」の大合唱である。笑いを堪えられなかったのか、笑うしかなかったのか。最初に笑った人の功績は評価されて然るべきだろう。これは当然トミーの意図した結果ではない。制作者の手を離れて独り歩きするのが、カルト映画なのか。いや、もうこれは奇跡である。観てみたい。でも、観たくない。でも、やっぱり観たい!

エンドロール前に本家の映像が流れるというお約束がある。本作の場合は、再現映像と本家の映像を横に並べて比較でき、とても味わい深い。

トミーとグレッグは今なお活動中である。トミーの無尽蔵な資産のおかげで……と思うかも知れないが、驚くことに製作費600万ドル超に対し封切り週末興行1800ドルだった『ザ・ルーム』は、見事ロングランを果たして黒字化を達成したのである。すげえ。現在ポスト・プロダクション作業に入っている新作は、トミーの(自称)故郷ニューオリンズを舞台にした、その名も『Big Shark』。サメ映画である。めちゃくちゃ気になるぞ。絶対つまらないけど。