オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ギャング・オブ・ニューヨーク』

Gangs of New York, 166min

監督:マーティン・スコセッシ 出演:ダニエル・デイ=ルイスレオナルド・ディカプリオキャメロン・ディアス

★★★★

概要

1800年代半ばのニューヨークにおけるギャングの抗争。

短評

ディカプリオ主演の映画だと思って劇場に行ったら、ディカプリオよりも遥かに目立っているおっさんがいて驚いた。そして、そのおっさんが大スターであるディカプリオの存在が霞むほどの凄みを発していて、更に驚いた。言わずもがなの名優ダニエル・デイ=ルイスである。当時の三十郎氏は知らなかったのである。その年のアカデミー賞で、主演男優賞にディカプリオではなく彼がノミネートされているのを見て、不思議と納得したものである(ノミネートが助演なら獲っていたのではないか)。

あらすじ

1846年。自称・原住民のネイティブズ(プロテスタント)vsアイルランド系移民のデッド・ラビッツ(カトリック)の戦い。この戦いの中で父ヴァロン神父(リーアム・ニーソン)を殺された少年が成長し、敵のリーダー、ビル(ダニエル・デイ=ルイス)に復讐するためニューヨークに戻ってくるというのが大まかな話の流れである。他のスコセッシ映画と同様に、一代記という形式の中に時代や社会をこれでもかと描きこんだ一作になっている。

感想

印象的だったのは、宗教の使い方である。戦いの前には同じ祈りの言葉を唱え、ビルが「ヴァロンとの間には宗派の違いしかなかった」と語るように、ビルとアムステルダムレオナルド・ディカプリオ)は宿敵でありながらも本質的な違いはない。復讐を胸に秘めて少年院を出たアムステルダムだったが、その直後に聖書を投げ捨てる描写が象徴するように、宗教の違いを捨てた彼らに戦う理由はない。アムステルダムはビルに取り入りながら、擬似的な親子関係を感じていたはずである。その関係の結実が、ビルを捨て身で暗殺から救ったとっさの行動だろう。その後、ジョニーの嫉妬により戦いが避けられなくなり、ハッピー・ジャック(ジョン・C・ライリー)を絞殺する瞬間にキリストを磔にした十字架が現れる。この時点で宗教が復活し、それまでの個人的な復讐の物語が民族間の争いへと再び拡大する。

スコセッシは、『Gimme Shelter』に代表されるような少々分かりやす過ぎるような曲を使う演出が有名なのだが、本作のエンディングで流れる『The Hands that Built America』も、その一種だろうか。本作の公開は、9.11の影響により1年遅れた。その間に変更された箇所はあるのだろうか。9.11の前と後では、ラストシーンや曲の持つ意味合いが少々変わってくるように思われる。9.11の後だと、どんな困難や対立があろうとも、必ず再び立ち上がり発展していく象徴がニューヨークのように思える。一方で、9.11とラストシーンを除いて本作を考えると、一つの火花で爆発する危うさを秘めた都市のようにも思える。「宗教が対立を招く」というモチーフも、不思議と9.11に重なる。いずれにせよ、アムステルダムやジェニー(キャメロン・ディアス)の身体の傷がそうであるように、本作で描かれているような血の歴史がアメリカという国に刻みつけられているのは間違いないだろう。

両者、両陣営の戦いを終わらせるのは、ギャングよりも大きな暴力の主体、軍隊である。暴力の主体が巨大化すれば、戦いの規模も大きくなり、犠牲者も増える。その行き着いた先が9.11というのは、流石に何でもかんでも結び付け過ぎだろうか。

グレイテスト・ショーマン』でお馴染みのP・T・バーナムが登場する。彼は、ボクシングの会場で自身の興行を宣伝していたり、女性を鳥籠に入れた桃色な展示をする劇場を運営している。演じるロジャー・アシュトン=グリフィスは、爽やかなヒュー・ジャックマンとは対称的なハゲデブである。同じ人物や時代を描いても、切り口によって随分と印象が変わるものである。限りなく生々しく描かれた1860年代のニューヨークは、本作の大きな見どころの一つ。不正が当たり前の選挙など、当時の文化や空気を感じられるのも面白い。

嫉妬から対立を招くジョニーは随分とみみっちい奴だと思っていたが、BSS(僕が先に好きだったのに)というのは今や人気ジャンルなのだとか。精神的寝取られは、寝取られる相手がいない層にハマるのか。

余談だが、原作には映画のような大きなストーリーの流れはない。当時のギャングのエピソード集である。本作に衝撃を受けて原作を読んだ当時の三十郎氏は面食らったものだが、今読んでみたら少しは面白さが分かるだろうか。

アムステルダムが喧嘩をする時に、握った拳の内側を自分に向けて構えている。パンチを繰り出す際に腕を半回転させる必要があるので殴りにくいと思うのだが、何かメリットがあるのだろうか。相手に詰められて防御姿勢を取る時なら理解できるが。

ギャング・オブ・ニューヨーク (ハヤカワ文庫NF)

ギャング・オブ・ニューヨーク (ハヤカワ文庫NF)