オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『嵐の中で』

Durante la tormenta(Mirage), 129min

監督:オリオル・パウロ 出演:アドリアーナ・ウガルテ、チノ・ダリン

★★★★

概要

嵐の夜にテレビで過去と通信する話。

短評

物凄く強引だし、物凄く納得がいかない点もあるのに、物凄く面白かったという印象を否定できない一作。ネタバレは読まない方がよい類の話である。監督が『ロスト・ボディ』や『インビジブル・ゲスト』のオリオル・パウロなので、「今回も何かあるぞ」と警戒しながら観ていたはずなのに、ミスリードされたり騙されたりする前に、「物語がどこへ向かっていくのだろう」という興味の惹き方が凄まじく、すっかり映画の世界に飲み込まれてしまった。パウロ作品の常連美魔女ベレン・ルエダは、今回はちょい役で出演している。

あらすじ

1989年11月9日、ベルリンの壁が崩壊した日、スペインは嵐の夜だった。自身の演奏を録画するのが趣味の少年ニコが、向かいの家での悲鳴を聞きつけ駆けつけると、そこには女の死体とナイフを持った男が。ニコは家から逃げ出したところで車に轢かれて死亡する。それから25年後。ニコの住んでいた家に引っ越してきたベラ(アドリアーナ・ウガルテ)とその家族(夫+娘)。ニコが録画したビデオテープを見つけて再生すると、何故か1989年のニュースが流れる。その夜、テレビが25年前のニコと繋がり、向かいの家に行かないように注意すると……、翌日、世界に改変が起きている。

感想

序盤は、この話のどこにミステリーやどんでん返し要素があるのだろうと疑問に思っていたが、過去を変えたことで現代に変化が起きた辺りからすっかり夢中になった。タイムトラベルものでの時空改変はありきたりな設定なのだが、それを知らずに観たので「そう来たか!」と完全にやられてしまった。本作を観ずに本稿を読んでしまった人は、その体験を味わえないことになる。申し訳ないので、忘れた頃に「タイトルに見覚えがあるなぁ」と思い出して観てほしい。Netflixオリジナル作品なので、プライムビデオのように配信リストから外れることはないはずである。

ニコが目撃した殺人についての時空を跨いだミステリーと、改変された世界のベラのスリラー(意図せずじて過去改変したため、戸惑いや“どうしていいか分からない感”が大きい)が同時進行する。それだけでも面白いが、改変後に消失した娘グロリアの存在がドラマを生み、更に別の種類のドラマもありと、見どころが詰まっている。詰め込みすぎのリスクを冒しながら、(強引にでも)よくまとめたものである。ラストは少し切ないが、母にとって娘より大切な存在はいない。

全体としてはとても面白いが、細かい箇所には不満の多い映画である。その最たる例が二つ。一つは、時空改変後のベラが、触れた相手の過去を見られるという設定。一つの映画に超常現象は一つで十分である。それ以上増やすと、“何でもあり”の悪いご都合主義にしかならない。この超能力無しで話を繋げられたら、パウロの脚本家としての手腕に一段上の評価ができるのに。

もう一つは、改変された現代から更に改変する際の方法。過去を改変したことにより、ベラは世界線Aから世界線Bに移動することになる。ここから元の世界線Aに近い世界線Cに移動する前に、彼女は一度死んでいる。A→Bの移動については、ベラという観測者がいる上で、周囲に変化が起きる。一方で、B→Cの移動については、ベラという観測者が一度失われているので、Cの世界で目覚めたベラは、果たして何者なのかという疑問が残る。映画的には元のベラなのだろうが、それだと道理が通らない。