オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『アビエイター』

The Aviator, 170min

監督:マーティン・スコセッシ 出演:レオナルド・ディカプリオケイト・ブランシェット

他:アカデミー賞助演女優賞ケイト・ブランシェット)、撮影賞(ロバート・リチャードソン)、衣装デザイン賞(サンディ・パウエル)、美術賞(ダンテ・フェレッティ他)、編集賞セルマ・スクーンメイカー

★★★

概要

飛行機が大好きな潔癖症の大富豪ハワード・ヒューズの半生。

短評

スコセッシによるギャングではない人物の実録もの。ディカプリオによる持ち込みの企画なのだとか。ギャング映画もう一つの大富豪映画とは異なり、主人公に苦しみを感じられるのが本作の特徴だろうか。ストロボの閃光を利用したストップモーションなどスコセッシらしい演出も見られるが、話自体は彼らしくないように感じる。

あらすじ

若くして両親を亡くし、莫大な遺産を受け継いだハワード・ヒューズ。彼は飛行機と映画製作に無尽蔵に大金を注ぎ込み、自らの夢を実現させていく。ハリウッドと女優と浮き名を流し、世界最速飛行記録を達成し、我が世の春を謳歌する。しかし、その一方で母親の影響である潔癖症が彼を苦しめる。

感想

三十郎氏が本作から受けたハワード・ヒューズという人物の印象は、ロマンが溢れ過ぎて色々とハミ出しちゃった男である。映画では既存の社会構造に対して怯むことなく立ち向かった英雄としての側面が強調されているが、晩年はかなり悲惨だったのだとか。ディカプリオが手を洗う演技が印象的なので、そちらの側面をもっと見てみたかった。もっとも映画がこれ以上長くなると困るのも事実である。

スコセッシの他の実録ものとの違いは、この英雄性の強調だろう。ここが三十郎氏には本作が少々物足りなく思える原因である。ヘンリーやジョーダンは、絶対に英雄ではないならず者たちの生き様を限りなく魅力的に描くことで、悪者が正義であると錯覚させるような破壊力があった。本作は、破天荒かつ英雄的行動と、その裏にあった影の部分を描いている。「大富豪も大変だなぁ」とは思うが、何か既存の意識や考え方を覆すような威力には欠ける。

潔癖症の行き着く先が、自宅のシアター・ルームに引きこもったボトラーというのが笑える。そもそも細菌が気になるのなら、彼の好むミルクよりも、彼が飲まない酒の方が清潔だろうに。三十郎氏は軽い風邪でも飲みたい時には「アルコール消毒だから」と自分に言い訳している。ミルクに拘り、酒を飲まないのは、潔癖症の原因となった母親の影響があるのだろうか。その辺りは劇中で描写がないので分からないが、ヒューズが酒を飲める年齢になる前に母が逝去していることからも、彼が“母親にとっての良い子”であろうとしたまま抜け出せなかったように思える。飛行機好きもワンパク少年の延長ではないだろうか。

時代によって色調が変化している。具体的には世界最速での世界一周達成を境に変わり、達成前は色が褪せたような感じでコントラストが強い。達成後は見慣れた映像になる。恐らくこの時代に使用されていたフィルムの色に合わせたのではないだろうか。よく分からないが、様々な面から当時の雰囲気を再現しようと挑戦したのだろう。

ヒューズの映画界に対する貢献は意外にも大きい。この辺りがスコセッシが監督を引き受けた理由ではないだろうか。無数の飛行機を飛ばしまくり、20台以上のカメラを使ってもまだ足りないとMGMに借りに行く(メイヤーやワーナーといったスタジオの名称としてお馴染みの単語が、人物の名前として出てくるのも楽しい)。やりたい放題である。予算の制約を受けずに撮りたい映像を追求する姿勢は、映画製作における一つの道を切り拓いたと言えるだろう。スコセッシもディカプリオと組んで以降、金を使うことを覚えた。

しかしながら、最大の功績は、ジェーン・ラッセルの大きなおっぱいをスクリーンで見せつけたことだろう。ありがとう、ハワード。あなたのおかげかどうかは分からないが、その後のハリウッドはおっぱいを見せることに対して寛容になった。三十郎氏もその恩恵を享受している。

ちなみに、デ・パルマの『スカーフェイス』のリメイク元『暗黒街の悪役』は、ヒューズ製作の作品である。

超のつく大物ながら小動物のように怯える裏のあったヒューズとは対象的に、キャサリン・ヘップバーンケイト・ブランシェット)とエヴァ・ガードナーケイト・ベッキンセール)は、最初から最後まで堂々の大物スターの凄みを感じさせた。

アビエイター(字幕版)

アビエイター(字幕版)