オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮』

En kongelig affære(A Royal Affair), 137min

監督:ニコライ・アーセル 出演:アリシア・ヴィキャンデルマッツ・ミケルセン

★★★

概要

宮廷医師が国王夫妻を手玉に取って成り上がる話。

短評

今でこそ北欧諸国には先進的なイメージがあるが、本作の舞台である18世紀には、デンマークはヨーロッパ最後の砦として貴族や教会の特権階級が権勢を誇っていたそうである。そこに現れたのが、宮廷医師ヨハン・ストルーエンセマッツ・ミケルセン)。彼のラスプーチン的手腕により、デンマーク啓蒙主義の時代が訪れる。不倫恋愛ものみたいなタイトルだし、実際にその要素もあるが、それ以上に歴史ものとしての性格が強い。実話である。

あらすじ

イギリスからデンマーク王室に嫁いだカロリーネアリシア・ヴィキャンデル)。期待と不安に胸を躍らせるも、国王クリスチャン7世がどうしようもない阿呆で気が滅入ってしまう。とある貴族が自らの復権を目論んで宮廷に送り込んだドイツ人医師ストルーエンセは、まず国王の信頼を得て、次に王妃と関係を持ち、王室の権力を掌握していく。そして、自らの奉ずる自由思想や啓蒙主義を政策に反映させていく。

感想

登場した時にはどうしようもない阿呆に見えたクリスチャン7世だが、実は単なる阿呆ではない。意外にも教養深く、そのことからストルーエンセとの仲を深めていく。阿呆にしか見えなかったは、彼の患っていた統合失調症が理由だそうである。

国王に「妻の退屈病をなんとかしてくれ」と頼まれたことから王妃にも接近するストルーエンセ。起こる事が起こる。一方で王を信頼関係を結び、一方で王妃と不倫する。なんたる八面六臂の活躍ぶり!王には自らの政治的信条を吹き込み、王妃には自らの自らを挿し込む。自由思想や啓蒙主義という現代へと繋がる功績を残したことは大いに評価されるべきだが、やっている事自体はラスプーチン道鏡と同じである。

その点で、彼が聖人ではないことを示すエピソードが挿入されているのは、とてもフェアに感じる。彼は、自分の子を身籠ったカロリーネに対して「産むな」と突き放すし、それが拒否されれば王に妻を抱くように唆す。王の署名なしに自らが法案を通す権限を獲得したことからも、愛憎劇というよりも権力闘争の物語であることがよく分かる。それが極まるのは、自ら廃止した検閲を、保身のために復活させるシーンである。

映画の主題は貴族をはじめとする守旧勢力との戦いである。それならば王妃と寝て話をややこしくすることはないのに……と思うが、余計なことをして足をすくわれるのは、権力闘争における常道か。

ストルーエンセが実現した政策には、検閲の廃止や拷問の禁止といった分かりやすいものに加えて、予防接種があるのが興味深い。当時のデンマーク天然痘が襲ったが、教会は自然科学による対処よりも神の御加護の方が有効だと信じていたようである。今も似たような話を見かける気がする。