オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『チェインド』

Chained, 94min

監督:ジェニファー・リンチ 出演:ヴィンセント・ドノフリオ、コナー・レスリー

★★★

概要

母子を誘拐した男が母親を殺して子供を育てる話。

短評

デヴィッド・リンチの娘、ジェニファー・リンチ監督作である。リンチの娘が監督だなんて絶対に意味不明な映画に違いないなと思いつつ、リンチくらい分からないと、逆にマイケル・ベイの映画のように頭を空っぽにして、“全く分からない”という感覚を楽しめる。そう期待して観たら、意外にも真っ当なスリラーで普通に面白い!からの……、やっぱり意味不明だった。父親の映画と違って、話の筋は分かりやすいし、メタファーとイメージの羅列でもないのだが、結局何がしたかったのかよく分からない。

あらすじ

とあるポツンと一軒家に微笑まないデブ(ヴィンセント・ドノフリオ)が住んでいた。男はタクシーの運転手で、乗客の女を誘拐しては自宅に連れ帰り、犯しては殺し、床下に埋めていた。殺した後は、被害者の身分証と事件記事のスクラップをコレクションするのが彼の生き甲斐である。ある時、男は母と幼い息子の親子を誘拐する。男はいつものように母親を犯して殺すが、息子にはラビットと名を付けて生かし、家事と仕事を任せるのだった。

感想

デブの少年時代のトラウマ(父親による虐待。母親と無理やり行為をさせられる)が悪夢として描かれ、それが異常者を生み出した原因であると察せられる。しかし、それだけで彼の心理面が表現できているとは到底思えないので、あのシーンは彼に兄弟がいるという伏線以上の効果はなかっただろう。つまり、デブが何を考えて誘拐・強姦・殺人の猟奇犯罪バリュー・セットを繰り返しているのかは最後まで分からない。彼は「(被害者の)女たちがやらせるんだ」「お前も女の味を知れば分かる」と言うが、そんなわけがあるか。猟奇犯の内面に迫るのも面白いが、怖さという点では彼のように意味不明な方が怖い。見た目も怖い怪演である。しかし、彼の恐ろしさを強調するならトラウマが不要だったような気がする。

さて、そんなデブとラビット(イーモン・ファレン)の共犯生活も早九年。デブは「そろそろお前も初体験をしなきゃな」とラビットに無理やり相手を選ばせて、ピチピチの18歳アンジーちゃん(コナー・レスリー)を誘拐してくる。ラビットは、(セックスさえすれば命は助かると勘違いして)「好きにしていいのよ」と迫るアンジーちゃんの魅力に屈し、奇妙な絆が芽生えていたように見えた二人の間に亀裂が入る。

タイトルの『チェインド』は物理的・心理的の両方の鎖を意味すると思うのだが、後者の鎖が外れたのはアンジーちゃんの魅力だけが原因なのだろうか。“実際に肌に触れる”という要素以外は、それまでの女性たちと同じはずなのに、どうして彼女だけが特別だったのだろう。本当に性欲が全てを上回ったというだけの話なのか。それとも、心理的な鎖など最初から無かったとでも言うのか。最後の展開を考えれば二人の擬似親子関係こそが重要なはずなのに、機微を描くことなく解消されてしまった。

本作の最後には衝撃の展開が待っている。確かに驚いたが、どうしてそこに帰着したのかさっぱり分からない。擬似親子関係の理由には納得だが、猟奇犯罪とは繋がらない。結局、デブもラビットも何がしたかったのだろうか。やっぱり分からない。なるほど、これは確かにリンチの血……とは違う何かな気がする。

チェインド (字幕版)

チェインド (字幕版)