オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『カジノ』

Casino, 178min

監督:マーティン・スコセッシ 出演:ロバート・デ・ニーロジョー・ペシ

★★★★

概要

凄腕ギャンブラーによるカジノ経営。

短評

グッドフェローズ』と同じくマフィアの実録ものである。スコセッシがこの素材を料理して美味しくならないはずがない。本作にジミー・ホッファは姿を見せないが、カジノの裏にいるマフィアはトラック運転手組合を支配しているので、『アイリッシュマン』と繋がりのある話と言ってもよい。従って『アイリッシュマン』も面白くないはずがないのである。

あらすじ

1970年代。凄腕の賭博師サム(ロバート・デ・ニーロ)が、その腕を見込まれてカジノ・タンジールの運営を任される。有能な彼は順調に売上を伸ばし親玉への上納金も増やしていく。しかし、“ベガスの華”ジンジャー(シャロン・ストーン)と結婚し、幼馴染のニッキー(ジョー・ペシ)がラスベガス進出を果たすと、サムの歯車が徐々に狂っていく。

感想

サムの行動には二つの疑問が残る。一つは、ジンジャーとの結婚である。何でも入念に調べ上げ、あらゆる情報を精査した上で賭けの対象を決めてきた彼が、金の掛かる女との結婚という危険な賭けに出たのは何故だろう。『ウルフ・オブ・ウォールストリート』では「客を24時間365日観覧車に乗せ続けろ」という表現だったが、本作でも「カジノの運営で大切なのは、客に賭けさせ続けること」とサムは理解している。賭け続ける限りいつかは負けるのである。結婚生活も、一つ一つの行動がベットしているのと同じようなものだろう。当然、彼は負ける。非合理的だが、所詮男は美女の魔力に勝てないのか。

もう一つは、コミッショナーのボンクラ義弟の解雇である。有能な彼が無能な人間に我慢できないのは理解できるが、コミッショナーは「主任じゃなくて使い走りでもいいから」と譲歩しているので、その条件くらいは飲めなかったのだろうか。あそこで敵を増やさなければ、もっと違った展開もあっただろうに。

上述の二つはサムの判断ミスだと思うが、それらとは関係なく幼馴染のニッキーだけは制御不能である。サムに落ち度がなかったとしても、ニッキーの野望が暴走を続ける限りは、どこかで破綻が訪れていただろう。

レイジング・ブル』出演以降徐々に存在感を増してきたジョー・ペシが、遂にデ・ニーロと同格に近い役となり、モノローグにも参入している。言うまでもなく抜群の存在感である。彼はジョン・ウィックもかくやのボールペンで人を殺す凶暴な男である。常人に理解できるような理由がなくともブチ切れる暴走列車の近くにあるものは全てが凶器に見える。「チェーホフの銃」もびっくりの「ジョー・ペシの〇〇」である。〇〇には何を当てはめてもよい。彼が咥えている爪楊枝だって、三十郎氏には凶器にしか見えなかった。爪楊枝で人を殺したら、ジョン・ウィックを超えるのに。

ラスベガスにおける金の循環が面白い。あらゆる場所で賄賂が横行し、関係者全員で“キックバック社会”を運営している。スコセッシは、時に長回しを利用しつつ、それらを実に分かりやすく説明している。

本作をもってスコセッシとデ・ニーロの黄金コンビは一度解散され、配信開始まで遂に一ヶ月を切った『アイリッシュマン』まで再び両者が相まみえることはなかった(正確には『The Audition』というカジノのCMがある。これにはディカプリオとブラピも出ていて『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の前に共演を実現させている)。本作の後のデ・ニーロは徐々にコミカルな役が増え、“強面な面白おじさん”みたいなイメージがつき、優しいお爺ちゃんになってしまったのを、三十郎氏は大変不満に思っている。デ・ニーロは怖いのだ。暴力からも遠ざかり気味だったデ・ニーロが、再びスコセッシの下で、どんな伝説の殺し屋ぶりを見せるのかが楽しみで仕方がない。身体が動くのか心配だったが、本作に登場する殺し屋も高齢ながらプロらしい冷酷な殺し方を見せているので、派手なアクションとは違う暴力で楽しませてくれるだろう。

サムの娘が「映画館に行きたい」と言っていたシーンで『エレファント・マン』と聞こえた気がするのだが、間違いないだろうか。あれは子供が観たがるような映画なのか。ニッキーの息子もテレビで『ブラジルから来た少年』を観ていたし、この世界の子供たちはマセている。

カジノ (ハヤカワ文庫NF)

カジノ (ハヤカワ文庫NF)