オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『ボーダー』

The Border, 108min

監督:トニー・リチャードソン 出演:ジャック・ニコルソンハーヴェイ・カイテル

★★★

概要

職場と家庭に嫌気が差した国境警備隊員の話。

短評

ジャック・ニコルソン主演の米墨国境もの。テキサスの国境沿いの町、エルパソ国境警備隊に着任したチャーリー(ジャック・ニコルソン)が、同僚の腐敗や妻の浪費癖にウンザリして、ひょんな形で知り合ったメキシコ人の女マリア(エルピディア・カリロ)に手を貸す話である。終盤の展開は「これってハッピーエンドなの?この後どうするの?」と不安になるような唐突さだが、彼が“何かしたくなってしまう”気持ちが分かるくらいには、いや~な出来事が淡々と続いてやるせない気分になる。どうでもよいが、『ボーダー』と『ザ・ボーダー』の二つの邦題がある。

あらすじ

ロサンゼルスで工場経営者と馴れ合って不法移民逮捕のノルマをこなしていたチャーリー。彼はこの仕事に嫌気が差しており「公園の管理人に戻りたい。鴨に餌をやりたい」と漏らすが、妻マーシーが「(私の故郷の)エルパソに家を買いましょう!エルパソに行けば運が向いてくるわ、女の勘よ!」と強く主張するので渋々エルパソに移り住む。エルパソで国境警備の仕事に就いたチャーリーだったが、ロサンゼルス時代よりも酷い腐敗に直面するのだった。

感想

ロサンゼルスとエルパソに共通しているのは、どちらも移民を必要としているという点である。アメリカ人が働かないような低賃金で過酷な労働を担う存在が必要なので(劇中では「真夏の炎天下に農作物の収穫なんてしたくない」といった台詞で表現される)、建前としては不法移民を取り締まるが、実態としては故意の見逃しが発生し、そこにメキシコとアメリカ双方の業者と国境警備隊との癒着の余地が生まれる。チャーリーは同僚のキャット(ハーヴェイ・カイテル)とは異なり、この癒着から積極的に利益を得ようとはしていないが、仕方のないものという諦めもあり、黙認している。

この「あ~やだな~」と思いながらも惰性で働く状況に変化を与えるのが、頭空っぽノータリン妻のマーシーである。暇を持て余した専業主婦の“夢の我が家”計画は止まらない。チャーリーがオーダーメイドのシャツを断って堅実に既製品を買うのとは対称的に、「支払いは先だから」と高価なウォーターベッドやソファを買い漁り、家計を逼迫させ、チャーリーがキャットらの裏稼業に参加せざるを得ない状況を作り上げる。これは見ていて大変にイライラするので、彼女の演技は上手いのだと思う。国境警備の仕事と家庭の二つのやるせなさからアメリカの駄目な部分がよく分かる(制度的矛盾と飽くなき欲求)。80年代の映画ではあるが、アメリカン・ニューシネマにカテゴライズしてもよさそうである。

ズルズルと泥沼にハマっていく男をジャック・ニコルソンが静かに演じている。彼は正義漢でもなければ悪に染まることもできないだけに、平凡な男が板挟みのストレスで「やってらんねぇ……」となる感じがよく出ていた。呆けたような表情でフリーズする演技は名人芸である。

ザ・ボーダー [DVD]

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