オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『花殺し月の殺人──インディアン連続怪死事件とFBIの誕生』デイヴィッド・グラン

Killers of the Flower Moon: The Osage Murders and the Birth of the FBI/David Grann

概要

全米で最も裕福なネイティブ・アメリカンの部族が殺される話。

感想

ウインド・リバー』を観て、ネイティブ・アメリカン関連の負の歴史に興味を持ったところで見つけた一冊である。なんとマーティン・スコセッシによる映画化の企画が進行中であるという。映画化を待ちたいところではあるが、完成どころか撮影開始がいつになるのかも分からないし、スコセッシが映画化に着手と聞けばそれだけで猛烈に興味をそそられて我慢できなくなるのが三十郎氏という人間である。

副題がなければ本格ミステリ小説のようなタイトルだが、本書はノンフィクションである。「事実は小説よりも奇なり」を地で行くようなおぞましい事件が扱われているので、これがフィクションだったらよかったのにと思わずにはいられない。三部構成になっており、第一部では、保留地から石油が湧いて全米で最も裕福な部族になったオセージ族が次々に殺害されていく事件のあらましが紹介される。第二部では、地元司法当局による捜査が一向に進まないため、連邦政府から派遣されたトム・ホワイトという捜査官が決死の捜査の末に事件を解決へと導く。この事件が、捜査局が連邦捜査局(FBI)へと飛躍したきっかけである。第三部では、話が現代へと飛び、解決されたかに見えた事件の空白を著者が追うと、更に深い闇が明らかになる。

事件の概要は、オセージ族が享受していたオイルマネーの恩恵を我がものにせんとする血なまぐさい陰謀譚である。何も無い荒れた土地に追いやられた部族も悲惨だったが、幸運にも恵まれた土地に追いやられた部族でさえ、幸運だったが故により大きな不幸に見舞わられることとなった。西部開拓時代という言葉の“開拓”の部分に騙されそうになるが、実際は“征服”であったことがよく分かる。本書に登場する被後見人制度をはじめとする諸々の制度の中からも、白人が非白人を人間ではないと見なしていた(今もそう思っている?)ことがよく分かるのだが、白人ではないというだけでよくもこんなことができるものだと戦慄する。

第一部と二部については、凄惨な事件とそれを決死の覚悟で追う昔気質だが公正な捜査官という映画的にとても面白くなりそうな内容である。続発する事件と捜査妨害。誰を信じてよいのか分からない状況はとてもスリリングなミステリーとなっている。背景にあるアメリカの捜査局の歴史も興味深い(フーヴァーという個人は認めづらいが、彼の業績全てを否定することはできない。)。その中でも特にロバート・デ・ニーロが演じる予定となっている重要人物が、歳を重ねて丸くなったように見える今のデ・ニーロに抜群にハマるだろうという確信があり、今から映画の完成が待ち遠しい(が、いつになるのか分からないので一度忘れたい。企画が頓挫したら悲しすぎる)。ちなみに、レオナルド・ディカプリオが、かつて彼が演じたフーヴァーの指揮下にある捜査官という面白い役どころで主演の予定である。

問題は第三部である。そして第三部こそが本書の白眉である。黒幕の逮捕と有罪判決により事件は幕を下ろしたかに思われたが、有罪判決が下されたのは一件の殺人についてだけで、それ以外の殺人については未解決のままである。更に、黒幕が関与していた期間以外にもオセージ族が故意に殺害されたと考えられる記録が見つかり、事件化すらしていない殺人の存在が明らかとなる。調べを進めると、当時の地域の有力者のほぼ全員が、つまり社会全体でオセージ族を殺害し、事件を隠蔽するシステムを作り上げていたという事実が明らかになる。

本書が出版されたのは2017年。著者が事件を調べていたのは2012年の話である。事件が起きたのは1920年代であるため、恐るべき殺人システムに加担していた者たちは何のお咎めもなしに余生を送り、既に死んでしまっただろう。彼らがインディアン・ビジネスにより収奪した資産は彼らの子孫へと受け継がれ、子孫はどんな金であるかも知らされずに今もアメリカ社会における特権的身分を享受していることだろう。全貌は分からないままである。アメリカという国は、やはり血と暴力の歴史の上に成り立っている国なのだ。この余りに救いのない、エピローグでは片付けられない後日談を、映画ではどのように消化するのだろうか。

西部劇においてはインディアンが野蛮で恐ろしい種族として描かれている。対して、本書に見る白人の恐ろしさは文明的である点である。ただ場当たり的に命と金銭を奪うのではなく、計画的に、組織的に、自らの手を汚さず、目的のものを奪い取る。時にそれは殺人という野蛮な形を採るが、そうでなくとも制度そのものに搾取の仕組みを忍び込ませて目的を達している。この事件における最悪な点は、殺人自体をシステムに組み込んでいることである。

Amazonの関連商品に面白そうなタイトルが並んでいたので、しばらく犯罪ルポというジャンルを追い掛けてみたい。あまりこのジャンルばかり読むとゲンナリしそうだが。

最後に印象的だった言葉を引用しておきたい。一度、陪審不一致により評決不能となった後に、判事が次の陪審団に警告する言葉である。

この地球上には存続しえない国家があり、ある状態に陥ると例外なく崩壊します。……それは、その国の民が『法廷に正義の裁きはない』と言うようになったときです。

デイヴィッド・グラン『花殺し月の殺人──インディアン連続怪死事件とFBIの誕生』より

花殺し月の殺人――インディアン連続怪死事件とFBIの誕生

花殺し月の殺人――インディアン連続怪死事件とFBIの誕生