オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『パラダイン夫人の恋』

The Paradine Case, 114min

監督:アルフレッド・ヒッチコック 出演:アリダ・ヴァリグレゴリー・ペック

★★

概要

弁護士が夫殺しの容疑を掛けられた美人依頼人に入れ込む話。

短評

いまいちヒッチコックらしくない法廷劇。裁判の行方や痴情のもつれは立派な心理サスペンスの題材なのかもしれないが、ヒッチコックらしい状況が生み出すハラハラを感じられなかった。弁護士には感情移入できないし、夫人も使用人もどうにでもなれという感じで、どこに視点を置いてよいのか分からないまま映画が終わってしまった。

あらすじ

夫のパラダイン大佐を毒殺した容疑で妻のマダレーナ・パラダイン(アリダ・ヴァリ)が逮捕される。彼女の弁護を務めるのはアンソニー・キーン(グレゴリー・ペック)。キーンは美貌の夫人に入れ込み、なんとか無罪を勝ち取りたいが、肝心の夫人は何を考えているのかよく分からない。

感想

キーンは、弁護士倫理と個人的恋愛感情、そして家庭の事情といった要素が複雑に絡み合うキャラクターのはずだが、夫人に入れ込む理由が「美人だから」の一点通しである。接見を通じて徐々に心を寄せるわけでもなく、最初に会って以来、周囲の声にも耳を貸さずに猪突猛進している。これは流石に雑なのではないか。その割には淡々としているところがあり、法廷で感情的になり過ぎるという設定とも合わない。夫人と使用人のラトゥールも心理的な葛藤のあるキャラクターだが、話の順序で隠していただけで、上手く描けているとは思わなかった。ヒッチコックは不安や緊張といった感情を描かせればピカイチの監督だが、複雑な恋愛感情にはあまり興味がなさそうである。

それでも光る演出はあって、ラトゥールが夫人の背後をゆっくりと回りながら入廷するシーンは、二人の関係や、これから話が動くことを予感させる。この時、カメラは夫人の表情を捉え続けているのだが、ラトゥールが退廷する時には、逆に彼が何度も夫人の方を振り返り見る様子が映されている。

キーンの妻ゲイ(アン・トッド)は、現代の感覚からすると健気過ぎて引いてしまった。

イギリスの法廷と言えばヘンテコなかつらが有名だが、座席の位置関係が興味深かった。日本の法廷だと、部屋の奥に裁判長が陣取り、中央に証人、そして左右に検察と弁護士が向き合っている。アメリカだと検察と弁護士は判事の方を向いて左右に分かれていただろうか。本作では、検察と弁護士が判事から見て左側の同じ列に並んで座っている。その向かいが陪審員の席である。だから何だと言えば何もないが、こうした構図ひとつを取っても制度上の意図があるのだろう。他にも「神に誓う」証言宣誓は日本ではできないので、心理的には偽証しやすいだろうなと思った。