オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『吸血怪獣 チュパカブラ』

A Noite do Chupacabras, 106min

監督:ロドリゴ・アラガォン 出演:メイラ・アラルコン、キカ・オリヴェイラ

★★

概要

あまりチュパカブラとは関係なく二つの家族が争う話。

短評

誰しも一度くらいはチュパカブラという名前を聞いたことがあるだろう。チュパ(吸う)カブラ(ヤギ)で、「ヤギの血を吸う」という意味の南米産のUMAである。キュートな響きの名前に反してグロテスクな外見の怪物でもある。世の中にはチュパカブラの名前を聞くだけで興奮するファンの方もいらっしゃるのかもしれないが、本作に登場するチュパカブラは単なる安っぽい着ぐるみの変人である。どう考えてもチュパカブラという設定を借りてゲテモノ映画を撮りたいだけである。

あらすじ

ブラジルの奥地でシルヴァ家とカルヴァーリョ家の二つのファミリーが土地を巡って長く対立していた(ファミリーと言ってもマフィアではなく本当に家族どうしの啀み合いなのだが、ブラジル人は平気で銃をぶっ放すので実質的にマフィアどうしの戦いのようなものである)。戦いの末に両家は休戦協定を結んでいたが、チュパカブラが原因で(はないと思う)、再び戦いの火蓋が切られるのであった。

感想

こんな雰囲気のブラジル映画を観たことがあるなと思ったら、監督が『シー・オブ・ザ・デッド』のロドリゴ・アラガォンだった。どうりで似ているはずである。似ていると言うよりも素材を変えて同じことをしているだけである。ブラジルの田舎を舞台にしたやりたい邦題のグロ映像集である(おっぱいもあるよ)。とてつもなくチープで全く怖くはなく、愉快にゲラゲラ笑える類のグロである。サンバのリズムのパーカッションが軽快に全編を貫いていることからも、シリアスの欠片もないことが分かる。それでいながら豪快な流血や人体破壊が生々しい。普通に酷い出来の映画なのだが、どろどろで奇怪な魅力が癖になる。

あらすじに書いた通り、話の大枠としてはチュパカブラに関係なく両家がドンパチやっている。チュパカブラがチープならドンパチもチープで、発砲音がパシュパシュ小さくてショボい(『ジョーカー』のような巨大なバァン!とは対称的)。ハリウッド映画の迫力ある音に慣れているので小さく感じるが、実際はどの程度の音が鳴るのだろう。ともかくドンパチはショボい。本作の魅力はチュパカブラでも銃撃戦でもなく、血みどろのナイフバトルである。

グサグサと刺す様子が生々しく、そこから吹き出る血も豪快である。登場するジャガーの死体は明らかに偽物なのだが、チュパカブラに殺されたヤギの死体くらいならブラジルであれば本物が使えるのではなかろうか。ブラジルであれば刺される人間の身体くらいは本物が使えるのではなかろうか。そんなことはないのだろうが、脚本や映像のクオリティには一切気を使っている様子が見られないのに、ゴア描写だけはフェティシズム的なこだわりが随所に感じられる。チュパカブラの頭を潰すシーンが執拗過ぎて、「監督は絶対このシーンで絶頂してるよな」と思いながら笑っていた。

チュパカブラの役割は両家が戦っているところに乱入してくるという“いてもいなくてもよい”ものである。中弛みが相当に酷いので、この内容であれば90分にまとめてほしかった。チュパカブラとは無関係に人肉食の変態まで登場するし(彼の脱皮の描写は好き。彼が唱える呪文“クラトゥ・バラダ・ニクト”は元ネタが分かるが、それに続く“カンダハル・アルマ・マータ”は一体どういう意味なのか)、やりたいことを詰め込みすぎである。

マリアは豚の鼻の入ったフェイジョアーダを見て嫌そうな顔をしていたが、豚の鼻はゼラチン質で美味しいそうである。もっとも三十郎氏もグロテスクな外見の食べ物を拒絶するので、人のことをとやかく言えない。