オーガナザイズド

三十郎氏は映画とカメラと旅について語りたい。なお、実態はほぼ映画である。

『殺戮の世界史:人類が犯した100の大罪』マシュー・ホワイト

The Great Big Book of Horrible Things: The Definitive Chronicle of History's 100 Worst Atrocities/Matthew White

概要

人類歴代最多殺戮イベント上位100。

感想

読むのが疲れる本である。人類の蛮行の歴史を振り返って鬱々とした気分になるのではなく、21.6 x 16 x 5.4 cmというその辺の辞書よりも大きく分厚いサイズが物理的に大変であった。こういう本は電子書籍だといいのかなと思ったりするが、そもそも図書館で借りてきた本なのでどうしようもない。内容の方はユーモアを交えた軽妙なタッチで、おぞましい人類の歴史を楽しく学ぶことができた。

上位三つを紹介しよう。1位は予想通り第二次世界大戦である。その犠牲者数はなんと6600万人(兵士2000万人。民間4600万人)。2位が二つあって、チンギス・ハンと毛沢東の4000万人。この数字に圧倒されるか、それとも意外に少ないと思うか。本書の中に「一人の死は悲劇だが、集団の死は統計上の数字に過ぎない」という言葉が出てくる。正にその通りであり、本書で扱われている最低数の30万人でもギョッとしていたはずが、100万、1000万と数が増えていく内にスッカリ麻痺してしまった。大きな数字が出てくると盛り上がってしまう自分を発見するのである。

自由主義の世界において最悪の虐殺者のイメージを誇る毛沢東だが、4000万人の内の大部分は飢饉による死者である(それでも粛清の数も凄いが)。本書では直接の殺害と政策の失敗による死者を区別していない。これはとても興味深い。台風の際に避難所へ入ることを拒否されたホームレスの記事を思い出した。直接だろうが間接だろうが、人が死んだという結果は同じである。ホームレスの件でも「この対応は酷い」「同じ空間にいるのは正直嫌だ」「差別だ」と様々な意見が見られたが、ホームレスからしてみれば“締め出された”という結果だけが残る。事件に対してどう考えるのかは、加害者側の自己弁護の方法の違いに過ぎない。「良かれと思ってやった」が言い訳に過ぎないことは、あらゆる加害者の言葉からも明らかである。政治も同じで、それが最善だと考えていたとしても、被害が出れば自分の責任であることを政治家や官僚は認識しておくべきだし、責任を取らせるべきだろう(なお毛沢東スターリンも、そしてイディ・アミンも天寿を全うした)。

著者の少し冷めた視点が面白い。100万人の死者を出し46位にランクインした秦の始皇帝は稀代の暴虐な君主のように言われているが、これは彼の存命中に不遇を被った学者たちが、彼の死後に悪く記述し、それが歴史となったことに基づいている。悪名高き焚書坑儒も、前例踏襲主義の学者たちが「前例がない!」と反対ばかりするので前例自体を亡き者にし、それが貨幣や度量衡の統一に繋がったという面がある(それも非難した学者は生き埋めにした)。善悪の観念というものは、常に自分に都合の良い決めつけと共にある。

興味深かったのは大西洋の奴隷貿易(1600万人で10位)の章で、アメリカの奴隷制を終わらせた背景には産業革命があったというもの。産業革命により経済が弾力性を増すと、奴隷という長期に渡り衣食住を保証する必要のある投資が資本家にとっての危険性を増した。労働者を子供の頃から育てるよりも、必要な時に雇って要らない時には解雇する方が都合がよいのである。これにより北軍は戦争に必要な経済的支援を得られたのである。これってつまり……とお察しだろうが、著者は

自由労働者は結婚し、子供を養い、仕返ししたり、裁判に訴えたり、教会に行くことも、教会を避けることもできる。お金を貯めることも、使うことも、ビールを飲むことも、ウイスキーを飲むことも、飲みすぎることも、読書することも、引っ越しすることも、許されている。ズボンを所有することも、許さている。しかしたしかにその全てを除いては、奴隷の身分とさして違いは……。

マシュー・ホワイト『殺戮の世界史:人類が犯した100の大罪』より

と現代の労働者たちを擁護している。つまりこれらですら叶わないのであれば……。

グラディエーター』で描かれている剣闘士たちの死者数は350万人で28位にランクイン。戦争のような大規模戦闘でもなければ、征服者や権力者による一斉虐殺でもない、決闘の死者数が350万人である。ローマ人は流血が好き過ぎるだろう。もっともアクション映画やスプラッター映画が好きな三十郎氏がこの時代のローマに生きていれば熱狂していたであろうことは想像に難くない。映画というヴァーチャル・リアリティ様々である。

カルロス2世があまりにひどい早漏のために子供ができなかったといったトリビア要素も面白い(子供ができない程の酷い早漏というのは挿れる前に出るレベルなのか。野生動物たちは超早漏でもしっかり交尾していると言うのに。それでも『ドント・ブリーズ』方式で回収、注入すれば何とかなるだろうに)。他にも南米の人身御供と人肉食のような謎の残る要素にも惹かれる。

表現の仕方では、「一滴の血も流さない」と約束したティムールが、その言葉の通りに敵兵を生き埋めにしたところで笑ってしまった。

ナチスは、ユダヤ人への対応とは対称的に人種的に近い捕虜に対しては甘めの対応だったらしく、『大脱走』の収容所での厚遇にはそんな裏があったのかと妙に納得させられた。

死者数の推定方法について、資料が揃っていないものについては総人口の減少から推定していたりするのだが、出生率や経過年数のような変数は十分にコントロールされているのだろうか。これを無視して減少数だけを見ると、現在の日本はセルフ虐殺中ということになってしまう。流石にここを無視して統計資料を使っているということはないのだろう。それとも、日本が民族レベルでは社会・経済的に虐殺されていると解釈すべきか。未来のある時点で結果だけを振り返った時にはどちらになるのか分からない。

殺戮の世界史: 人類が犯した100の大罪

殺戮の世界史: 人類が犯した100の大罪